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非心臓手術において術前貧血が周術期予後に与える影響 [抄読会]

Preoperative anaemia and postoperative outcomes in non-cardiac surgery: a retrospective cohort study.

【背景】
 心臓手術では、術前の貧血は予後を悪化させることが知られているが,非心臓手術において術前貧血が予後に与える影響については明らかになっていない.本研究では非心臓手術において術前貧血が周術期の死亡率・合併症発症率に与える影響について検討した.

【方法】
 米国外科学会の手術の質改善プログラム(ACS NSQIP)データベースに08年に登録された非心臓手術受けた患者22万7425人(平均年齢56.4歳、57.6%が女性)を対象とした.30日死亡率と合併症罹患率,術前と周術期の危険因子を抽出した.合併症罹患については,心臓(急性心筋梗塞,心停止),呼吸器(肺炎,48時間を超える人工呼吸,予定外の挿管),中枢神経系(脳血管障害,24時間を超える昏睡),腎臓(進行性腎不全,急性腎不全),創傷(切開部深層感染,手術対象臓器の感染,創傷離開)に発生するものと、敗血症,静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症または肺塞栓症)について検討した.

【結果】
 主要エンドポイントは30日死亡,2次エンドポイントは術後30日間の合併症発症とした. 22万7425人中6万9229人(30.44%)が術前貧血とされた.軽症貧血(男性:29% < Ht <39%, 女性: 29% < Ht <36%) が5万7870人.中等症~重症貧血(Ht <29%)は1万1359人だった.術前貧血群の周術期死亡のリスクは貧血がなかった患者に比べ有意に高かった.30日死亡率は貧血なし患者が0.78%,貧血があった患者では4.61%であった(OR 1.42, 95%CI 1.31-1.54).軽症貧血患者に限定しても差は有意(OR 1.41, 95%CI 1.30-1.53),中等症~重症貧血群ではさらに顕著になった (OR 1.44, 95%CI 1.29-1.60) .周術期合併症罹患率も術前貧血群で有意に高かった(5.33% vs 15.67%; (OR 1.35, 95%CI 1.30-1.40).軽症貧血群では(OR 1.31, 95%CI 1.26-1.36),中等症~重症貧血群では(OR 1.56, 95%CI 1.47-1.66)であった.合併症に関しては中枢神経系の合併症以外貧血がすべての危険因子となった.

【結論】
 非心臓手術を受ける患者では軽症でも術前貧血が周術期死亡と周術期合併症の独立した危険因子であった.

【解説】
 以前より心臓手術では術前の貧血が予後に影響を与えることが報告されていた.今回,非心臓手術においても同様の結果が得られた.術前から貧血が認められた場合,鉄剤・エリスロポエチンなど輸血以外の方法で貧血を補正することにより予後の改善が得られる可能性がある.

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左心不全患者に対する冠動脈バイパス術 [抄読会]

Coronary-Artery Bypass Surgery in Patients with Left Ventricular Dysfunction

【背景】
 冠動脈疾患に加えて心不全を合併する症例に対する冠動脈バイパス術(CABG)の有効性は現在のところ確立されていない.

【方法】
 2002 年 7 月~2007 年 5 月に,EF<35%で CABG が適応となる冠動脈疾患症例1212 例を,薬物療法単独(602 例)または薬物療法+CABG(610 例)に無作為に割り付けた.主要転帰は全死因死亡率とした.主要副次的転帰は,心血管系の原因による死亡率,全死因死亡または心血管系イベントに伴う入院の複合割合とした.

【結果】
 主要転帰は,薬物療法群 244 例(41%),CABG 群 218 例(36%)で発生した(CABG のHR 0.86,95% CI 0.72 - 1.04,p=0.12).心血管系イベントに伴う死亡は,薬物療法群 201 例(33%),CABG 群 168 例(28%)であった(CABG のHR 0.81,95% CI 0.66 - 1.00,p=0.05).全死因死亡または心血管系イベントに伴う入院は,薬物療法群 411 例(68%),CABG 群 351 例(58%)であった(CABG のHR 0.74,95% CI 0.64 - 0.85,p<0.001).追跡期間中 (中央値 56ヵ月) にCABG を施行されたのは,薬物療法群 100 例(17%),CABG 群 555 例(91%)であった.

【結論】
 本試験では薬物療法単独と薬物療法+CABG との間に主要エンドポイントとした全死因死亡率に有意差を認めなかった.CABG 群では薬物療法単独群と比較して,心血管系の原因による死亡率と全死因死亡または心血管系の原因による入院の発生率が低かった.

【解説】
 本試験ではガイドライン推奨の基礎投薬を充分に行ったうえで薬物療法単独とCABG併用の2群で検討を行っている.その結果,有意ではなかったが,薬物療法単独と比較しバイパス術により総死亡率が14%低下し,さらにバイパス術の併用によって心血管疾患死(19%),およびが死亡と全ての入院(26%)は有意に低下した. CABGの有用性が示されたことによって,今後狭心症合併心不全においても積極的血行再建が推奨されるであろう.


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高リスク症例における麻酔深度モニターの精度 [抄読会]

Prevention of Intraoperative Awareness in a High-Risk Surgical Population

【背景】
 術中覚醒は,周術期合併症のリスクが高い患者の 1%近くに発生する.覚醒の予防には,標準的な呼気終末麻酔薬濃度(MAC)モニタリングを行うプロトコールよりも,脳波から求めるバイスペクトラルインデックス(BIS)を用いるプロトコールのほうが優れているという仮説を検証した.

【方法】
 前向き無作為化単盲検試験として覚醒のリスクが高い症例(図1) 3施設6,041 例を,BIS を指標とした麻酔を行う群(40 < BIS < 60)または,MAC を指標とした麻酔を行う群(0.7 < age-adjusted MAC < 1.3)に無作為に割り付けた.プロトコールには,警報に加えて,計画的教育とチェックリストが含まれた.Fisher の正確確率検定の片側検定を用いて,BIS プロトコールの優越性を検討した.

【結果】
 術後に面接を行った患者で明確な術中覚醒が生じたのは,BIS 群では 2,861 例中 7 例(0.24%)に対し,MAC 群では 2,852 例中 2 例(0.07%)であり(差 0.17 パーセントポイント,95% CI -0.03 - 0.38,p=0.98) ,BIS プロトコールの優越性は示されなかった.明確な術中覚醒が生じたかまたはその疑いがあったのは,BIS 群 19 例(0.66%)に対し MAC 群 8 例(0.28%)であり(差 0.38 パーセントポイント,95% CI 0.03 - 0.74,p=0.99),この場合も BIS を用いたプロトコールの優越性は示されなかった.麻酔薬の投与量と術後主要有害イベントの発生率に差を認めなかった.

【結論】
 BIS プロトコールの優越性は確立されなかった.覚醒をきたした患者は MAC 群のほうが BIS 群より少なかった.

【解説】
 心臓血管手術症例を始めとする術中覚醒のハイリスク症例では麻酔深度モニターとしてBISの精度はMACと同程度の精度であった.現在,心臓血管手術においては近赤外線モニターが優先され,麻酔深度モニターが行われない(行いにくい)症例も多い.しかし心臓血管麻酔が術中覚醒のリスクを高めること,静脈麻酔を中心とした麻酔法が選択されやすいことから今後心臓血管麻酔時のBISの重要性は高まるものと思われる.

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僧帽弁閉鎖不全症に対する経皮的修復と手術の比較 [抄読会]

Percutaneous repair or surgery for mitral regurgitation.

【背景】
 逆流ジェットの起始部にある弁尖の辺縁をクリップで合わせる現在試験段階の経皮的手技によって,僧帽弁の修復が得られる可能性がある.

【方法】
 中等症以上(グレード 3+または 4+)の僧帽弁閉鎖不全症患者 279 例を,経皮的修復を行う群と,従来の僧帽弁形成術または僧帽弁置換術を行う群のいずれかに,2:1 の割合で無作為に割り付けた.主要複合エンドポイントは,12 ヵ月の時点で死亡していないこと,僧帽弁機能不全に対する手術が行われていないこと,グレード 3+または 4+の僧帽弁閉鎖不全症がみられないこととした.安全性の主要エンドポイントは,30 日以内の重大な有害事象の複合とした.

【結果】
 12 ヵ月の時点で,有効性の主要エンドポイントの発生率は,経皮的修復群 55%,手術群 73%であった(p=0.007).主要エンドポイントの発生率は,死亡は両群ともに 6%であった.僧帽弁機能不全に対する手術は経皮的修復群 20%に対し手術群 2%,グレード 3+または 4+の僧帽弁閉鎖不全症は経皮的修復群 21%に対し手術群 20%であった.30 日の時点での重大な有害事象の発生率は,経皮的修復群 15%,手術群 48%であった(p<0.001).12 ヵ月の時点で,両群とも左室の大きさ,NYHA分類,QOL 指標が,術前と比較して改善していた.

【結論】
 僧帽弁閉鎖不全症に対する経皮的修復は,従来手術と比較して症状の軽減は少なかったが,より安全性に優れ,臨床転帰は同程度にであった.

【解説】
 今回の検討では経皮的修復術が僧房弁形成術または置換術と同程度の臨床転帰を得ることができたとしている.しかし,僧房弁逆流症は僧房弁が弁葉だけでなく弁下組織まで含めた僧房弁複合体の疾患であり,僧房弁複合体を理解することによって治療も発展してきた.その視点から考えると今回の経皮的修復術は適応が限定されるものと思われる.

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高リスク患者に対する経カテーテル大動脈弁置換術と 開胸大動脈弁置換術の比較 (PARTNER trial 続報) [抄読会]

Transcatheter versus surgical aortic-valve replacement in high-risk patients.

【背景】
 リスクが高いため従来の大動脈弁置換術の適応とならない大動脈弁狭窄症症例に対する経カテーテル大動脈弁置換術が死亡率を低下させることが報告されている.現在まで高リスク症例に対する両手技のRCTは行われていない.

【方法】
 高リスクの重度大動脈弁狭窄症患者 699 例(25 施設)を,バルーン拡張型ウシ心膜弁を用いた経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)を行う群と従来の大動脈弁置換術(conventional)を行う群のいずれかに無作為に割り付けた.主要エンドポイントは,術後 1 年での全死因死亡とした.主要仮説は,経カテーテル大動脈弁置換術は開胸大動脈弁置換術に対し非劣性であることとした.

【結果】
 術後 30 日の全死因死亡率は,TAVI群 3.4%,conventional群 6.5%であった(p=0.07).術後 1 年ではTAVI群24.2%とconventional群26.8%であり(p=0.44),経カテーテル群で 2.6 パーセントポイント低かった(95%CI上限値 3.0 パーセントポイント,事前に規定したマージン 7.5 パーセントポイント,非劣性についてp=0.001).術後 30 日の重症脳卒中の発生率は,TAVI群 3.8%,conventional群2.1%であり(P=0.20),術後 1 年ではTAVI群 5.1%とconventional群2.4%であった(p=0.07).術後 30 日の心血管系イベント発生率は,TAVI群が有意に高かった(11.0% vs 3.2%,p<0.001).conventional群で有意に多い有害事象は,大出血(9.3% vs 19.5%,p<0.001),心房細動の新規発症(8.6% vs 16.0%,p=0.006)であった.術後 30 日で症状の改善が認められた患者はTAVI群のほうが多かったが,術後 1 年までに群間差は有意ではなくなった.

【結論】
 高リスクの重度大動脈弁狭窄症患者に対する大動脈弁置換において,経カテーテル手技と従来からの手術法との間で 1 年生存率には差を認めなかったが,周術期の合併症に大きな差を認めた.

【解説】
 Conventionalな大動脈弁置換術は出血が多く,心房細動の発症も有意に多かった.これは大動脈弁置換術に限らず開心術周術期に共通して見られる合併症であり,TAVIより多いのは当然の結果であると思われる.大動脈弁置換術において大動脈の遮断・遮断解除が塞栓症のリスクになるとされる.しかし今回の検討では脳卒中はTAVI群で有意に多かった.原因でとしては手技に伴う塞栓症が考えられるため,今後普及のためには手技,デバイス等の進歩が必要であろう.現時点においてTAVIは合併症が多い症例で,従来からの大動脈弁置換術がためらわれる症例に対して適用されると思われる.


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強化血糖降下療法が長期の心血管系転帰に及ぼす影響 [抄読会]

Long-Term Effects of Intensive Glucose Lowering on Cardiovascular Outcomes; The ACCORD Study

【背景】
 2 型糖尿病に罹患し,心血管疾患系リスクの高い患者に強化血糖降下療法を行うと,死亡率が上昇することが明らかになっている.今回,平均 3.7 年間行った強化血糖降下療法の死亡率と主要心血管系イベントに関する 長期(5年)転帰について報告する.

【方法】
 2 型糖尿病で心血管疾患系の危険因子を持つ患者を,強化療法群(目標HbA1C < 6.0%)と,標準療法群(7.0% < 目標HbA1C < 7.9%)のいずれかに無作為に割り付けた.強化療法群の死亡率が高かったため,強化療法中止後はすべての参加者の目標HbA1C値を 7.0% - 7.9%とし,試験終了時まで追跡した.

【結果】
 強化療法の中止前には,主要転帰(非致死的心筋梗塞,非致死的脳卒中,心血管系の原因による死亡の複合割合)の発生率に強化療法群と標準療法群の間で有意差は認められなかった(p=0.13).しかし,強化療法群で全死因死亡(主に心血管系)が多く(HR 1.21,95%CI 1.02 - 1.44),非致死的心筋梗塞が少なかった(HR 0.79,95%CI 0.66 - 0.95).これらの傾向は全追跡期間を通して認められた(死亡のHR 1.19,95%CI 1.03 - 1.38,非致死的心筋梗塞のHR 0.82,95%CI 0.70 - 0.96).強化療法中止後は,強化療法群のHbA1C値の中央値が 6.4%から 7.2%に上昇し,血糖降下薬の使用と,重度の低血糖およびその他の有害事象の発現率は,両群で同程度であった.

【結論】
 HbA1C < 6%を目標とした 3.7 年間の強化療法によって,標準療法に比べ非致死的心筋梗塞の 5 年発生率は減少したが,5 年死亡率は上昇した. 2 型糖尿病に罹患した心血管系リスクの高い患者に対しては,このような強化血糖降下療法は推奨されない.

【解説】
 ICU患者を対象としたNICE-SUGAR Studyを始めとして強化血糖療法に否定的な結果が相次いでいる.本研究は心血管系リスクの高い症例を対象にHbA1C値を指標として管理を行い,近年の結果と同様の結果を得ている.原因としては低血糖の発生などが考えられる.現時点では特に糖尿病患者において血糖値<180mg/dl,7.0%< HbA1C< 7.9%で管理することが推奨される.
 
 

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左冠動脈主幹部病変に対するPCIとCABGの比較 [抄読会]

Percutaneous Coronary Intervention Versus Coronary Artery Bypass Graft Surgery in Left Main Coronary Artery Disease: A Meta-Analysis of Randomized Clinical Data

【目的】
 本研究は左冠動脈主幹部(LMT)病変を有する患者に対する経皮的冠動脈インターベンション(PCI)の安全性と有効性を冠動脈バイパス術(CABG)の場合との比較を目的とする.
【背景】
 LMT病変に対してPCIとCABGを比較したこれまでのメタアナリシスは、主に前向き研究ではない観察研究を対象としていた.一方で近年いくつかの新しいRCTが報告されている.
【方法】
 4件の無作為化臨床試験に含まれた1,611例を、今回のメタアナリシスの対象とした.主要評価項目は,主要心脳血管イベント(MACCE),具体的には死亡,心筋梗塞(MI),再血行再建術(TVR),または脳卒中の1年発症率とした.
【結果】
 PCI群ではCABG群に比べ、MACCEの1年発症率が有意ではなかったものの高かったが(14.5% vs 11.8%,OR:1.28,95%CI:0.95 - 1.72、p=0.11)、これは主にTVRの増加(11.4% vs 5.4%,OR:2.25,95%CI:1.54~3.29,p<0.001)によるものであった.これに対して脳卒中の発生率はPCI群の方が低かった(0.1% 対 1.7%,OR:0.15,95%CI:0.03~0.67,p=0.013).死亡(3.0% vs 4.1%,OR:0.74,95%CI:0.43 - 1.29,p=0.29)およびMI(2.8% vs 2.9%,OR:0.98,95%CI:0.54~1.78,p=0.95)には有意差を認めなかった.
【結論】
 LMT病変を有する患者に対するPCIはCABGを施行した場合と比較してMACCE,死亡,そしてMIの1年発症率に有意差を認めず,脳卒中のリスクは低下したが,TVRのリスクは上昇した.

【解説】
 SYNTAX trialによってLMT病変,3枝病変に対するCABGのPCIの優位性が示されて以降,本邦においても減少し続けたCABG症例が漸増している(2008年).本研究はLMT病変のみを対象としており, 心血管系イベントの1年発症率に差を認めなかった.しかしCABGのPCIに対する優位性は期間,重症度(SYNTAX score)に比例すると考えられることからさらなる長期の成績が待たれる.

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心房細動症例におけるダビガトランとワルファリンの比較 [抄読会]

Dabigatran versus Warfarin in Patients with Atrial Fibrillation (RE-LY trial)

【背景】
 心房細動症例において抗凝固療法の第一選択薬はワルファリンである.一方,ワルファリンは出血リスクやPT-INRによる凝固能の厳密な管理が必要など問題点も多い.本研究では新規の抗凝固薬であるダビガトランの脳卒中予防効果をワルファリンと比較した.

【方法】
 日本を含む44ヵ国951施設,18113例を対象とした.6ヵ月以内に心電図でAFを確診され,脳卒中または一過性脳虚血発作(TIA)の既往,LVEF<40%,NYHA分類≧II,6ヵ月以内の心不全の既往,75歳以上(糖尿病,高血圧,冠動脈疾患患者は65歳以上)のうち一つ以上のリスクファクターを有する症例を対象とした.症例をダビガトラン110mg×2/日,ダビガトラン150mg×2/日,ワルファリン PT-INR 2-3でcontrolの3群に分け,脳卒中,全身性塞栓症,大出血について比較検討を行った.

【結果】
 主要転帰の発生率は,ワルファリン群 1.69%/年であったのに対し,ダビガトラン 110 mg 群 1.53%/年(RR 0.91,95%CI 0.74 - 1.11, p<0.001),ダビガトラン 150 mg 群 1.11%/年 (RR 0.66,95% CI 0.53 - 0.82,p<0.001)であった.大出血の発生率は,ワルファリン群 3.36%/年であったのに対し,ダビガトラン 110 mg 群 2.71%/年 (p=0.003),ダビガトラン 150 mg 群 3.11%/年 (p=0.31)であった.脳出血の発生率は,ワルファリン群 0.38%/年であったのに対し,ダビガトラン 110 mg 群 0.12%/年 (p<0.001),ダビガトラン 150 mg 群 0.10%/年(p<0.001)であった.死亡率は,ワルファリン群 4.13%/年であったのに対し,ダビガトラン 110 mg 群 3.75%/年(p=0.13),ダビガトラン 150 mg 群 3.64%/年(p=0.051)であった.

【結論】
 心房細動(AF)患者において,ダビガトラン 110mgの脳卒中および全身性塞栓症予防効果はワルファリンに対し非劣性を示し,大出血は少なかった。同150mgはワルファリンに比し,脳卒中および全身性塞栓症を有意に抑制した。大出血発生率は同等であった。

【解説】
 ダビガトランは血液凝固カスケードの下流にあるトロンビンを可逆的に阻害する直接トロンビン阻害剤である.治療域が広く,血中モニタリングの必要性がないこと肝臓の薬物代謝酵素の影響をにくいという特徴を持ち,本邦でも本年3月に発売された.周術期においても新規に発症する心房細動が問題となっているが,出血,凝固モニタリングなどがハードルとなってワルファリンの使用を躊躇する場面も多い.一方,ダビガトランにも出血の危険性はあり,腎機能障害症例では使用量の減量が必要などの注意点はあるが,本薬剤の登場によって周術期心房細動に対する抗凝固療法が変化していく可能性がある.


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術中回収式自己血輸血 [抄読会]

Cell salvage as part of a blood conservation strategy in anaesthesia.

1. 術中回収式自己血輸血の原理
 術中回収式自己血輸血システムは術野の血液を回収し,遊離ヘモグロビン,血漿成分,血小板,白血球,ヘパリンを除去した50-80% のへマトクリット値を持つ濃厚洗浄赤血球液を精製する.この濃厚洗浄赤血球液は精製後6時間の使用が可能である.一方,最近の研究では精製後18時間まで安全性が確認されたと報告されている.

2. 術中回収式自己血輸血の適応
 AAGBIのガイドラインでは術中回収式自己血輸血の適応として1000mL以上または循環血液量の20%以上の出血が予想されている症例,術前ヘモグロビン値が低い症例,出血の危険性が高い症例,多くの不規則抗体を持つ症例,血液型がRh(-)の症例を挙げている.これらの症例に術中回収式自己血輸血を行うことによって同種血輸血の輸血量を減らすことができる.

3. 術中回収式自己血輸血の利点
 同種血輸血は赤血球の形状変化能が低下しているため,末梢組織への酸素供給が充分に行われないことが考えられる.さらに2,3-DPGは採血後直線的に低下し2週間で枯渇するため酸素かい離曲線が左方移動し,組織で酸素は放しにくくなる.このため,同種血輸血は組織への酸素供給に必ずしも有利に働かない.一方,術中回収式自己血輸血では赤血球の形状変化能,2,3-DPGは維持されるため末梢組織への酸素供給に有利に働く.
さらに同種血輸血によって免疫修飾現象が生じる.免疫修飾現象とは基本的には免疫抑制作用として理解され,その発生には,主として輸血血液に混在する白血球やその関連物質が関与するものと考えられている.同種血輸血によるがん転移増加の報告は多い.
また同種血輸血は多形核白血球を活性化して炎症性サイトカインを放出する.術中回収式自己血輸血はこれらのことを回避することが可能である.

4. 術中回収式自己血輸血の欠点
 現在,術中回収式自己血輸血システムの改良によって術中回収式自己血輸血の欠点はほとんど認められない.洗浄の際,凝固因子・血小板が除去されるため,凝固異常の発症が懸念されるが,3L以内の出血であれば凝固異常は発症しないと報告されている.また,精製後 6時間以内であれば血液の汚染も問題ないとされている.

5. 術中回収式自己血輸血の新たな展開
 術中回収式自己血輸血は整形外科・心臓血管外科で特に使用されており,その有効性を論じた報告も多い.一方,以前は禁忌とみられていた領域にも術中回収式自己血輸血はその適用を広げ新たな展開を見せている.
a. 産科
 産科において出血は5大死因の一つである.産科では羊水塞栓,胎児血による同種免疫を懸念して回収式自己血輸血は行われていなかった.しかし,白血球除去フィルター使用によって羊水塞栓を予防できることが報告された.一方,フィルターを使用しても胎児血による同種免疫の危険性は減らないが,正常分娩ではその危険性は低いと思われる.現在では産科領域でも白血球除去フィルター使用の上回収式自己血輸血を行うことが推奨されている.

b. 担ガン症例
 担ガン症例も播種を懸念して術中回収式自己血輸血は行われてこなかった.白血球除去フィルター使用によってがん細胞はほぼ除去され転移の危険性はないと報告されている.さらに同種血輸血の使用によって免疫は低下しがん再発の危険性は高まることから,今後担ガン症例に対しても積極的に術中回収式自己血輸血は行われるかもしれない.

c. 感染症
 感染症合併症例に対しても感染症の拡大を懸念して術中回収式自己血輸血は行われてこなかった.感染症に対しても白血球除去フィルターを使用してほぼ細菌を除去することができると報告されている.同種血輸血使用よって免疫は低下し感染症は悪化する可能性がある.感染症症例に対して回収式自己血輸血も考慮すべきである.

 以上,術中回収式自己血輸血について概説した.現在,術中回収式自己血輸血は整形外科,心臓血管外科だけでなく白血球除去フィルターを使用することによって産科,悪性疾患,感染症症例へと適応を広げている.同種血輸血を回避または減量するため,術中回収式自己血輸血は輸血拒否症例を除きすべての症例に適応を広げていくものと思われる.

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早産児における酸素飽和度の目標 [抄読会]

Target Ranges of Oxygen Saturation in Extremely Preterm Infants

【背景】
 早期産児に対する酸素投与では,低濃度酸素投与症例が高濃度酸素投与症例と比較して未熟児網膜症の発症率が低いことが報告されている.一方,転帰を悪化させずかつ未熟児網膜症の発症を抑える酸素飽和度は明らかにされていない.

【方法】
 妊娠24 週 0 日~27 週 6 日で出生した小児1,316 例を対象とした.2×2因子デザインによる無作為化試験とし,酸素飽和度の目標を85-89%と 91-95%の2群に割り付け比較検討した.主要転帰は,重度の未熟児網膜症(限界域網膜症の発症,外科手術の必要性,ベバシズマブの投与),退院前の死亡,またはその両方の複合とした.全例をさらに,持続陽圧呼吸療法を施行する群と,挿管とサーファクタント投与を行う群に無作為に割り付けた.

【結果】
 重度の網膜症または死亡の発生率に,低酸素飽和度群(85-89%)と高酸素飽和度群(91-95%)のあいだで有意差を認めなかった(28.3% vs 32.1%,Relative risk [RR] 0.90,95%信頼区間 [CI] 0.76-1.06,p=0.21).入院時死亡率は低酸素飽和度群のほうが高かったが(19.9% vs 16.2%,RR 1.27,95% CI 1.01-1.60,p=0.04),生存児における重度未熟児網膜症の発症率は低かった(8.6% vs 17.9%,RR 0.52,95% CI 0.37-0.73,p<0.001).その他の有害事象の発生率に有意差を認めなかった.

【結論】
 酸素飽和度の目標を低め(85~89%)に設定した症例では高め (91~95%)に設定した症例と比較して,重度の網膜症または死亡の複合割合は減少しなかった.一方,酸素飽和度を低めに設定することにより生存児での重度の網膜症は顕著に減少したが,死亡率は有意に上昇した.現在未熟児網膜症を予防するために酸素飽和度の目標を低く管理することが推奨されている.本研究から得られた死亡率の上昇は大きな問題である.

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