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術前スタチン投与は周術期心血管系合併症を減らす [抄読会]

Evidence of Pre-Procedural Statin Therapy: A Meta-Analysis of Randomized Trials

【目的】
 本研究の目的は術前スタチン投与が術後転帰に与える影響を研究したRCTを対象に多変量解析を行うことである.

【背景】
 カテーテルインターベンション(PCI)や外科手術などの侵襲的な処置は心筋梗塞を始めとする重篤な周術期心血管系イベントを引き起こす可能性がある.本研究では術前スタチン投与を行った症例では臨床転帰が改善するという仮説を立てた.

【方法】
 2010年2月まで侵襲的処置(PCI,CABG,非心臓手術)に対して術前スタチン投与を行い臨床転帰を検討した無作為化対照試験をMEDLINE,Cochraneおよびclinicaltrials. govより抽出した.対象は術前よりスタチン投与を開始し臨床転帰を報告した研究とした.DerSimonian-Lairdモデルを用い,変量効果モデルによる要約リスク比を算出した.

【結果】
 スクリーニングした試験の8%(21/270)が本研究の対象となり,症例数は4,805例であった.術前スタチン投与により周術期心筋梗塞が有意に減少した(Risk ratio [RR]: 0.57,95%信頼区間[CI]: 0.46-0.70,p<0.0001).この結果はPCI(p<0.0001)と非心臓手術(p=0.004)では認められたが,CABG(p=0.40)では認められなかった.全死因死亡率は術前スタチン投与により低下したが有意差を認めなかった(RR: 0.66,95% CI: 0.37-1.17,p=0.15).さらに術前スタチン投与により,CABG施行後の心房細動も減少した(RR: 0.54,95%CI: 0.43-0.68,p<0.0001).

【結論】
 術前スタチン投与により周術期心筋梗塞の危険性は有意に低下する.さらに術前スタチン投与によってCABG施行後の心房細動のリスクも低下する.術前スタチン投与のルーチン使用を考慮すべきである.

【解説】
 術後心筋梗塞を始めとした周術期合併症の予防にはβ遮断薬が有効であるとされ広く使用されてきた.しかしβ遮断薬使用に伴う合併症(徐脈・低血圧)が転帰を悪化させると報告されたため1),2009年に改訂されたACC/AHA非心臓手術のための周術期血管系評価・管理ガイドライン2)において術前の新規β遮断薬投与に関しては慎重に行うよう変更された.
 スタチンはコレステロール合成を低下させる高脂血症治療薬である.さらに近年活性酸素種の産生抑制,血栓形成傾向の改善,炎症の抑制などが報告され,高脂血症症例だけでなく周術期への応用が試みられ良好な結果を得ている3).そして本研究はこれらの結果を追認するものである.現在ACC/AHA非心臓手術のための周術期血管系評価・管理ガイドライン2)においては術前投与症例は継続(ClassⅠ),血管手術では高リスク症例でなくてもスタチン投与は妥当(ClassⅡa)の推奨をうけている.今後周術期スタチン投与はさらに推奨されるであろう.

【参考文献】
1) POISE Study Group : Lancet. 2008;371:1839-47
2) Fleisher LA et al: Circulation 2009;120:e169-e276
3) Hackam DG et al: Lancet. 2006;367:413-8

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経カテーテル的大動脈弁留置術-PARTNER Trial [抄読会]

Transcatheter aortic-valve implantation for aortic stenosis in patients who cannot undergo surgery.

【背景】
 高リスク症例・大動脈高度石灰化症例では重症大動脈弁狭窄症があっても大動脈弁置換術の適応とならない.そのような高リスクの大動脈弁狭窄症患者に対する低侵襲な治療法として経カテーテル大動脈弁留置術(transcatheter aortic-valve implantation:TAVI)という新たな選択肢が提案されている.

【方法】
 手術不適応と判断された重症大動脈弁狭窄症患者を,バルーン大動脈弁形成術を行う群(control群)と,バルーン拡張型ウシ心膜弁を経大腿・経カテーテル的に留置する群(TAVI 群)に無作為に割り付け比較検討を行った.主要エンドポイントは経過観察中(中央値1.6年)の死亡率とした.

【結果】
 手術の適応が無いと診断された大動脈弁狭窄症患者21施設 358 例を無作為にcontrol群,TAVI群に分類した.1 年時の全死因死亡率は,TAVI 群 では30.7%であったが,control群では群50.7%であった(hazard ratio, 0.55; 95%信頼区間 [CI], 0.40~0.74; P<0.001).全死因死亡または再入院の複合割合は,TAVI 群 が42.5%であったのに対し,control群 は71.6%であった(hazard ratio, 0.46; 95%CI, 0.35~0.59; P<0.001).1年時生存症例で, NYHA分類で IIIまたは IV 度の症例数は,TAVI 群のほうが標準治療群より有意に少なかった(25.2% vs 58.0%; P<0.001).しかし30 日の時点では,TAVI 群はcontrol群と比較して脳卒中(5.0% vs 1.1%; P=0.06)と血管合併症(16.2% vs 1.1%; P<0.001)を多く発症した.TAVI 施術1 年後,心エコーによって狭窄・逆流などの弁機能異常を認めた症例はなかった.

【結論】
 手術の適応がないと診断された重症大動脈弁狭窄症患者に TAVI を施行した症例ではバルーン大動脈弁形成術を施行した症例と比較して脳卒中と血管合併症は多く発症したが,全死因死亡率,全死因死亡または再入院の複合割合は有意に低下し,心不全症状は有意に改善した.

【解説】
 TAVIは、大動脈弁狭窄を有するが手術の適応とならない症例に対する新たなアプローチ法として注目を集めている.現在のTAVIの適応は高度石灰化大動脈による手術禁忌症例や手術の高リスク症例である.しかし周術期死亡率は弁置換術が2%程度であるのに対してTAVIでは25%という報告も認められる.
TAVIには急性大動脈解離や左主幹部閉塞など施術に伴う合併症も多く報告され,本研究でも脳卒中,血管合併症を多く認めている.現在主流の大動脈弁置換術もデバイスの進歩によって高度石灰化症例のような症例にも施行されるようになってきた.よって現時点のTAVIの適応は大動脈弁狭窄症があるが手術適応がなく他に治療法がない症例に限定されるものと思われる.

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低侵襲心拍出量モニターの精度 [抄読会]

Minimally invasive measurement of cardiac output during surgery and critical care: a meta-analysis of accuracy and precision.

【背景】
 近年,熱希釈法による心拍出量測定の使用頻度は減少し,低侵襲心拍出量モニターを使用して血行動態を評価する症例が増加している.本研究では低侵襲心拍出量モニターの精度について熱希釈法を対照にmeta-analysisを行った.

【方法】
 2000年以降発表された熱希釈法と低侵襲心拍出量モニター(動脈圧波形解析法,経食道ドップラー法,部分二酸化炭素再呼吸法,インピーダンス心拍出量測定法)を比較した論文を対象とした.それぞれbias,precision,percentage errorの比較を行った.

【結果】
 47研究が本論文の対象となった.それぞれの方法の精度は以下の結果であった(N=研究数, n=測定数: bias±precision, percentage error).
動脈圧波形解析法(N=24, n=714: -0.00±1.22 l/min, 41.3%).経食道ドップラー法(N=2, n=57: -0.77±1.07 l/min, 42.1%).部分二酸化炭素再呼吸法(N=8, n=167: -0.05±1.12 l/min, 44.5%).インピーダンス心拍出量測定法(N=13, n=435: -0.10±1.14 l/min, 42.9%).

【結論】
 低侵襲心拍出量モニターは現在でも精度は熱希釈法に及ばない.低侵襲心拍出量モニター使用の際は精度の限界を踏まえて使用する必要がある.

【解説】
 肺動脈カテーテルを使用した熱希釈法は現在でも心拍出量測定のgolden standardであり,新しい心拍出量測定法が開発された際にはreference methodとして使用される正確な方法である.しかし肺動脈カテーテル挿入症例の9.5%に合併症が認められると報告され1),より低侵襲・正確な心拍出量モニターの開発が期待されている.近年,経食道心エコーを使用した心拍出量測定法が熱希釈法と同程度の精度であり,reference methodとして使用されつつある2,3).一方で経食道心エコーは習熟・測定に時間を要することから術中使用には難しい場面も多い.
 本研究では4種類の低侵襲心拍出量モニターについて検討を行い,いずれの方法も熱希釈法と比較すると心拍出量測定の精度が劣ることが示された.臨床上これらのモニターの精度が問題になることは少ないが,低侵襲心拍出量モニター使用の際は心拍出量測定値が真の心拍出量と乖離している可能性があることを念頭に置いて使用しなければならない.

【参考文献】
1) Harveys S et al. Lanset 2005; 366:472-7
2) Schmidt C et al. Br J Anesth. 2005;95:603-10
3) Imakiire N et al. J Anesth. 2010;24:511-7
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周術期脳梗塞とβ遮断薬 [抄読会]

Perioperative strokes and β-blockade.

 POISE study1)は周術期のβ遮断薬投与が心血管系イベントを減らす半面,脳梗塞発症率・死亡率を増加させることを明らかにした.この報告によって心筋梗塞をはじめとする周術期心合併症の予防療法は大きな転換を迫られている.本レビューでは周術期脳梗塞の発症・病態生理について概説し,非心臓手術に焦点を絞りβ遮断薬と周術期脳梗塞との関係について解説する.

1. 周術期脳梗塞
 周術期脳梗塞は一般外科手術で0.08-0.7%,心臓血管手術では8-10%の症例で発症する.しかし臨床上,譫妄として扱われている症例も多いため,実際の脳梗塞発症頻度はさらに高いことが予想される.心臓血管外科手術では塞栓による脳梗塞が最も多いが,非心臓手術では塞栓による脳梗塞は少なく脳血流低下に伴う脳梗塞の割合が高い.近年,周術期脳梗塞に脳血流の低下が関与していることを示唆する報告が相次いでおり,POISE studyの結果も脳血流の低下と脳梗塞との関係を裏付ける結果となっている.

2. 周術期のβ遮断薬
 多くの多施設共同研究から周術期のβ遮断薬投与が非心臓手術の周術期心血管系イベント・死亡率を低下させると報告され,周術期のβ遮断薬投与は確固たる地位を得た.しかし周術期β遮断薬使用の有力な報告であるDECREASEⅠ2)はβ遮断薬の心事故に対する危険率軽減作用が高すぎるとされ,周術期のβ遮断薬予防的投与の是非はPOISE studyまで持ち越されることとなった.POISE studyは周術期β遮断薬投与によって心血管イベントは減少するものの全死亡率・脳卒中発症率はβ遮断薬投与によって有意に増加すると報告し,低血圧と死亡率,脳卒中に関連があると結論づけた.POISE studyを含めた33研究のRCTを対象としたメタ解析3)においてもβ遮断薬投与によって心筋虚血は減少するものの脳梗塞,治療を要する徐脈,低血圧は増加すると報告され,予防的β遮断薬の投与に関して見直しを迫られることとなった.

3. β遮断薬の投与開始時期
 周術期の予防的β遮断薬投与開始が遅い(投与開始から手術までの時間が短い)と周術期脳梗塞発症リスクは高まる.このことはβ遮断薬投与から手術までの時間が短いとβ遮断薬の量をtitrateできず過量投与の可能性が高まることで説明される.さらにβ遮断薬の抗炎症作用は長期投与によって得られるため,抗炎症作用も期待できない.内科領域で心不全症例に対してβ遮断薬を投与する場合には数週間前から投与量をtitrateしながら適正量を決定する.今後周術期にβ遮断薬を投与する際もそのような配慮が必要であろう.なお,β遮断薬長期投与症例では中止によって心血管系イベントが増加するため周術期も投与を継続する.

4. β遮断薬の投与量
 投与量も徐脈・低血圧,さらに周術期脳梗塞と関連する.POISE studyも症例にかかわらず一定量のβ遮断薬が投与されたことが周術期脳梗塞発症率が高かった原因の一つであると考えられる.β遮断薬を大量に投与すると出血などによる低血圧の際にも心拍数は上昇しない.この点からもβ遮断薬は少量から開始しtitrateしながら適正量を決定することが望ましい.

5. β遮断薬長期投与と脳血管障害
 β遮断薬を長期投与されている症例では周術期にβ遮断薬の投与を継続しても脳血管障害のリスクは高まらず4),逆に投与中断によって心血管系イベントのリスクは高まる5).よってβ遮断薬長期投与症例では周術期も投与を継続する.

 周術期にβ遮断薬を予防的に投与する場合には手術の数週間前に少量から開始し投与量をtitrateする.さらに周術期における徐脈(<50bpm)・低血圧(SBP<100mmHg)を避ける.そしてβ遮断薬長期投与症例では周術期も投与を継続する.β遮断薬予防的投与による心合併症軽減作用を享受しながら副作用である周術期脳梗塞のリスクを軽減するためにこれらの対処が必要である.

【参考文献】
1) POISE Study Group : Lancet. 2008;371:1839-47
2) Poldermans D et al : N Engl J Med. 1999;341:1789-94
3) Bangalore S et al : Lancet. 2008;372:1962-76
4) van Lier F et al : Am J Cardiol. 2009;104:429-33
5) Hoeks SE et al: Eur J Vasc Endovasc Surg. 2007;33:13-9
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人工心肺の至適灌流量 [抄読会]

Optimal perfusion during cardiopulmonary bypass: an evidence-based approach.

1. 平均動脈血圧
 現在まで人工心肺時の灌流圧下限に関しては議論が続いている.人工心肺時,血圧を低めに管理することで血液を保護し出血量を抑えることができる.一方で血圧を高めに誘導することで高リスク症例でも臓器灌流圧を保つことが可能になる.現在灌流圧下限は50-60mmHgまたは70-80mmHgの2つが提唱されている.50-60mmHgを推奨する理由は脳血流自動調節能が平均血圧50-150mmHgで維持されるからである.一方,近年の研究は脳血流自動調節能下限が70mmHgであると報告しており,このテータが70-80mmHgが灌流圧下限であるとする説を支持している.一方,患者転帰は人工心肺灌流圧によらないとの報告も散見されており灌流圧下限に関しては一定の見解が得られていない.現時点では症例毎に至適灌流圧を設定することが推奨される.具体的にはリスクの少ない症例では50-60mmHg,リスクの高い症例(高血圧症例・頸動脈狭窄合併症例)では70-80mmHgを灌流圧下限とすることが望ましい.

2. 人工心肺灌流量
 常温下体外循環では多くの施設で2.2-2.5L/min/m2の灌流量を維持している.一方,灌流量を減らしても良好な成績が得られており,灌流量に関して一定の見解が得られていない.至適灌流量に関してもさらなる検討が必要である.

3. ヘマトクリット値
 人工心肺時には血液希釈を行うが,過度な血液希釈,輸血いずれも患者転帰を悪化させる.よって術前から無輸血手術を意識したヘマトクリット管理が必要である.具体的にはエリスロポイエチン等を積極的に使用して術前のヘマトクリット値を高める,人工心肺前後で晶質液使用を制限する,周術期血液検査を制限する,人工心肺回路を見直し充填量を減らすなどがあげられる.

4. 酸素供給
 酸素供給量(DO2)は
DO2=人工心肺灌流量×(Hb×SaO2×1.36)+0.003×PaO2

で表わされる.人工心肺中の酸素需給バランスの安全域は非常に狭くなる.一般的に灌流量は一定(2.2-2.5L/min/m2)で管理するためヘモグロビン値の低下が酸素供給量低下の最も大きな原因となる.ヘモグロビン値低下に伴う酸素供給量減少は予後を悪化させるため,ヘモグロビン値を維持する.

5. 体温
 体温に関しても低体温下の人工心肺と常温下の人工心肺に転帰の差を認めない.一方で復温をゆっくり行い低めの体温で人工心肺から離脱をした方が予後は良好であると報告されている.また復温時の送血温は37℃以上に上げないことを提案している.

6. 拍動流と定常流
 拍動流は現在のところ期待されていたほどの予後改善効果を認めていない.しかし拍動流のスキーム・デバイスは発展途上にあることから今後の進歩が期待される.

7. pH statとαstat
 pH statはin vivoの体温への補正時にCO2を投与しPaCO2 40mmHg pH7.4を維持する管理法である.一方,αstatは体温に応じたCO2投与を行わず37℃・PaCO2 40mmHg・pH7.4を維持する方法で現在主流の管理法である.pH statでは術後認知障害が増加するとの報告もあるがいずれの管理法が有効かの結論はまだ得られていない.

【解説】
 人工心肺時の至適灌流量に関しては未だ解決されていない部分が多い.現時点では,低リスク症例において50-60mmHg・高リスク症例においては70-80mmHgの灌流圧を保つこと,酸素供給を維持するために術前からヘマトクリット値を意識した管理を行うこと,温度管理では人工心肺時のの復温はゆっくり行い低めの体温を維持することが患者転帰の改善に有効である.
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OPCAB時の体温管理が術後転帰に与える影響 [抄読会]

The relationship between perioperative temperature and adverse outcomes after off-pump coronary artery bypass graft surgery.

【目的】
 本研究の目的はOPCAB時の体温管理と術後転帰の相関の有無を明らかにすることである.
【方法】
 OPCAB施行症例2294例を対象とした後ろ向き研究.症例は手術室退室時の体温によって体温低下群(≦34.5℃),軽度体温低下群(34.6-35.9℃),体温正常群(36.0-37.4℃),または軽度体温上昇群(37.5-38.8℃)に分けられた.さらに体温低下・上昇(≦35.9℃または≧37.5℃)の患者背景との関係,体温低下・上昇と術後転帰の間の相関について検討した.
【結果】
 全症例の37.7%が軽度体温低下群,9%が体温低下群,5.6%が体温上昇群であった.高齢,小さい体表面積,うっ血性心不全,心機能正常症例,臓器移植が低体温の独立危険因子であった.また,低体温は院内死亡率と有意な相関を認めた(オッズ比3.00,95%信頼区間1.11-8.08,p=0.03).また高体温も院内死亡率と有意な相関を認めた(オッズ比5.04,95%信頼区間1.18-21.55,p=0.03).さらに軽度体温低下群・体温低下群では有意に術後呼吸不全,再手術の頻度が高まった.
【結論】
 術中の患者体温管理によって周術期死亡率は低下し,術後合併症は減少する.

【解説】
 麻酔導入後患者体温は低下する.体温は麻酔法や麻酔量,術式,そして手術室の室温に左右され,症例によっては3℃の低下を認めることもある1).以前より人工心肺を使用した心臓手術では体温管理の成否が術後転帰を左右することが報告されてきたが,本研究から人工心肺使用の有無にかかわらず体温管理が術後転帰に影響を及ぼす可能性があることが示された.OPCABは人工心肺使用時のような積極的な加温ができないため麻酔科医が手術室の室温調節,輸液・輸血加温装置,温風式加温装置の使用などを通して積極的な体温管理を行わなければならない.一方,体温の上昇は脳神経系合併症を増加させるため2)37.5℃を超えないよう体温管理を行う.

【参考文献】
1) Sessler DI. Anesthesiology. 2000;92:578-96
2) Grigore AM et al. Anesth Analg. 2002;94:4-10
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周術期心筋梗塞 (PMI) [抄読会]

Perioperative myocardial infarction.

以前より周術期心筋梗塞(PMI)は術後3-5日に発症しやすいと考えられてきた.しかしバイオマーカー(特にトロポニン値)の詳細な分析によってほとんどのPMIは術後24-48時間に始まることがわかってきた.

1. 病態
 PMIの原因は急性冠症候群(type 1)と心筋酸素需給バランスの悪化 (type 2)の2つである.
a.急性冠症候群 (Type 1 PMI)
 急性冠症候群は,冠動脈粥腫破綻,血栓形成を基盤として急性心筋虚血を呈する臨床症候群である.術後には自律神経系亢進(内因性カテコラミンの増加),循環動態の不安定化(頻脈,高血圧),冠動脈収縮が起こりやすい.このような術後変化が術後の冠動脈粥腫破綻の危険因子となることが報告されている.さらに術後は過凝固,線溶系の抑制が加わることから急性冠症候群が発症しやすい土壌となっている.

b.心筋酸素需給バランスの悪化 (Type 2)
 術後は自律神経系亢進・痛みに伴って頻脈・不整脈を発症しやすい.頻脈は心筋酸素需要を増し,供給を減らす.逆に周術期にはhypovolemia・心機能の低下に伴って血圧の維持が困難な症例も経験する.血圧・冠灌流圧の低下は心筋酸素供給を減少させる.また冠動脈の収縮・貧血・低酸素も酸素供給を低下させる要因になる.このように周術期は心筋酸素需給バランスが乱れやすいため,冠動脈疾患が指摘されている症例ではPMI発症の可能性が高まる.

2. 予後
 PMIの早期死亡率は3.5-25%である.そしてトロポニン値が高いと早期予後も悪い.またPMIは長期予後も悪化させ,トロポニン値は長期予後の予測因子となる.

3. 予防
a.β遮断薬
 β遮断薬の術前からの予防的投与によって術後心筋梗塞は減少する.しかしβ遮断薬による副作用(徐脈・低血圧)は脳梗塞などを引き起こす可能性も高い.β遮断薬使用時には徐脈・低血圧に注意が必要となる.

b.カルシウム拮抗薬
 カルシウム拮抗薬がPMIを予防したとするRCTはまだないが,後ろ向き研究ではPMI予防に有効であったと報告されている.

c.α2アゴニスト
 RCTではデクスメデトミジンによるPMI予防効果は否定されている.

d.スタチン
 後ろ向き研究でPMIの予防効果が認められ,近年行われたRCTにおいてもPMI・周術期死亡を減少させたと報告されている.今後PMIの予防に積極的に使用されていく可能性がある.

e.アスピリン
 周術期アスピリン継続が有効なのは心臓手術のみで非心臓手術では有効でないと報告されている.一般的には術前5-7日間アスピリン投与は中断することが多い.

4. 周術期管理
 PMIが疑われる場合,トロポニンの測定,そして血液ガス検査を行う.低酸素血症・高炭酸ガス血症・アシドーシスの有無を確認し必要があれば補正を行う.また貧血がある場合にはヘモグロビン値を8-10g/dLまで補正する.同時に12誘導心電図検査を行いST変化を確認する.STが低下している症例では心拍数・血圧のコントロールを中心に循環管理を行う.循環動態が悪化している症例では肺動脈カテーテルを挿入し積極的な循環管理を行う.痛みが原因であれば鎮痛薬を投与し,不整脈がある場合には抗不整脈薬の投与・電気的除細動を行う. STが上昇している症例(頻度的には少ない)では循環器内科にコンサルトする.PCI,CABGが必要になることも考えられる.
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冠動脈バイパス手術に左室形成術を追加しても転帰は改善しない [抄読会]

Coronary bypass surgery with or without surgical ventricular reconstruction.

【背景】
 冠動脈疾患に伴う心不全症例に対する左室形成術は左室容積の縮小を目的として行われている手術である.今回冠動脈バイパス術(CABG)に左室形成術を併用することで,CABG を単独で施行した場合に比べ,死亡率や心疾患による入院率が低下するかどうか検討した.
【方法】
 2002 年 9 月~2006 年 1 月に,駆出率 35%以下かつCABG適応の症例で左室形成術の適応となる左室前壁の壁運動低下が認められる症例 1,000 例を,CABG 単独群(499 例)と,CABG+左室形成術併用群(501 例)に無作為に割り付けた.主要転帰は死亡と心疾患による入院の複合割合とした.
【結果】
 追跡期間中央値48か月後、死因を問わない全死亡および心疾患に起因する入院を複合した一次転帰評価項目において、有意な群間差は認められなかった(併用療法群58%、CABG単独群59%)(併用群におけるHazard ratio 0.99,95%CI 0.84~1.17, p=0.90).収縮末期容積は,左室形成術併用群では19%減少し,CABG単独群では6%低下した.
【結論】
 CABG に左室形成術を併用することで,CABG を単独で施行するより左室容積は縮小した.しかし,症状や運動耐容能は改善せず,死亡率や心疾患による入院率の低下を認めなかった.

【解説】
 左室形成術をCABGに併用しても死亡および心疾患による入院の頻度を減少させない.現在まで左室形成術による左室容積の縮小が長期的な左室リモデリングを抑制することが期待されてきたが,現在行われている心不全治療がリモデリングの増悪を有効に抑制し左室形成術の必要な症例が減少している可能性がある.一方,本研究の問題点として,左室形成術後の終末期容積は30%以上減少すると効果的であるが1),今回左室形成術に割り付けられた症例の左室縮小率は19%に留まっていること,さらにNYHAⅠ,Ⅱ度の症例も多く含まれていることが指摘されている.いずれにしても今後左室形成術の適応は難治性心不全などの重症症例に限定される可能性が高い.

【参考文献】
1. Tulner SA et al. Ann Thorac Surg. 2006;82:1721-7
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へパリン起因性血小板減少症 (Heparin-Induced Thrombocytopenia: HIT) [抄読会]

Heparin-induced thrombocytopenia. A contemporary clinical approach to diagnosis and management.

 ヘパリン起因性血小板減少症(heparin-induced thrombocytopenia: HIT)はヘパリンの投与とそれに続く免疫機序が絡んだ血小板減少症である.ヘパリン投与後の血小板減少症は以下の2つに分類される.

1. ヘパリン関連性血小板減少症 (heparin-associated thrombocytopenia: HAT)
 以前はⅠ型HITと呼ばれていた.ヘパリン自体が血小板凝集を増強することによって発症する非免疫的血小板減少症である.ヘパリン投与の10%に発症するが血小板減少は軽度で10万以下になることはまれである.ヘパリン投与2日以内に出現し血栓症を併発することは少ない.ヘパリンの中止によって症状は消失する.

2. ヘパリン起因性血小板減少症(heparin-induced thrombocytopenia: HIT)
 正式な名称はⅡ型HITであるが,以下HITと記載する.
a.HITの病態
 HITの発症機序は免疫反応である.抗原はヘパリンとPF4注)の複合体に対する抗体(HIT抗体)が抗原と免疫複合体を形成し血小板の活性化と血小板減少をもたらす.そして血管内皮の活性化,最終的に凝固反応が加速されてトロンビンが過剰に生産され血栓症を発症する.

b.HITの頻度
 ヘパリンの使用により約8%がHIT抗体を獲得し,0.5~5%の症例でHITを発症する.さらにHIT発症症例の1/3で動静脈の血栓症を併発する.またヘパリンで獲得したHIT抗体は低分子ヘパリン,ヘパリノイドと交差反応を示す.このためHITまたはHIT抗体保有者に対する低分子ヘパリン,ヘパリノイドであるダナパロイドは禁忌である.

c.HITの診断
 典型的な経過ではヘパリン投与5-10日の経過でHIT抗体が産生され,免疫反応に起因する血小板減少を起こし,血栓塞栓症を合併する.しかし,ヘパリン投与3日以内に発症する急速発症型,ヘパリン中止後に発症する遅延型も報告されているため注意が必要である.HITの臨床診断として血小板減少(Thrombocytopenia),血小板減少の時期(Timing),血栓(Thrombosis),その他の原因(oTher cause)の4項目をスコア化した4T'sスコアリングシステム(表)が提唱されている.臨床診断と同時に酵素免疫法によるHIT抗体検査を行う.非病因性のHIT抗体も検出するため偽陽性が多いが HITの除外診断には有効である.

d.HITの治療
 HITは血小板減少と血栓塞栓症が発症するためヘパリンの中止だけでは不十分である.HITはトロンビン過剰産生による過凝固が本体であるため抗トロンビン薬であるアルガトロバンを2μg/kg/minで開始する.維持は0.5-1.2μg/kg/minで行いAPTT(正常値の1.5-3倍)で投与量を調節する.典型的な経過ではアルガトロバン投与開始後6-7日で血小板数は回復する.

 以上HITについて概説した.ヘパリンが使用される機会は多くHITが見過ごされることもある.HITに血栓塞栓症を合併すると死亡率は20-30%にまで上昇するため,HITの可能性が高いと判断した時には迷わず治療(ヘパリンの中止・アルガトロバン投与)を開始する.

(表) 4T'sスコアリングシステム
HIT.jpg
各カテゴリーごとに点数化して総和を算出する(max 8点).
HITである確率は…6-8点 高い,4-5点 中間,0-3点 低い.

注) PF4
 血小板が刺激されることによってα顆粒から放出される糖タンパク.陽性に荷電しているため陰性荷電されているヘパリンと結合し抗凝固作用を中和する.
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大量出血・大量輸血 [抄読会]

Transfusion management of trauma patients.

 外傷による早期死亡の原因として最も多いのは頭部外傷であるが,それに続く原因が出血性ショックである.出血性ショックでは大量輸血を必要とするが,多くの症例で凝固能異常からDICに進展する.本稿では近年行われている凝固・止血能に配慮した輸血管理について概説する.

1. 大量輸血
 いくつかの定義が提唱されているが,一般的に24時間以内に4500mL由来の輸血を行うこと,または循環血液量を超える量の輸血を行うことを大量輸血という.

2. 外傷後の凝固能異常
 外傷後の凝固能異常の原因は凝固因子の消費,大量輸血による凝固因子の希釈,アシドーシス,低体温である.

3. 大量輸血時の注意点
a.晶質液の制限
 出血性ショック時には晶質液の使用を制限し早期から膠質液を使用する.輸液過剰はAbdominal compartment syndromeをはじめとした合併症を起こしやすい.血圧維持には血管収縮薬の使用も考慮する.

b.赤血球製剤の機能低下
 濃厚赤血球の保存中に2,3-DPGは直線的に減少し2週間で0になり,輸血後2,3-DPGが回復するには24時間以上が必要となる.このため輸血直後の酸素解離曲線は左方移動し,ヘモグロビンが組織で酸素を離しにくくなっている.さらに赤血球の形態変化能も低下しているため微小循環における酸素運搬能も低下している.このため濃厚赤血球の補充ほど酸素運搬能は改善しない.また保存期間の長い濃厚赤血球の使用により予後が悪化する.以上の理由から過剰な濃厚赤血球の使用は控える.

c.緊急輸血時の対応
 血液型の検査が間に合わない場合はO型の濃厚赤血球,AB型の新鮮凍結血漿を使用する.但し妊娠可能な年齢の女性にはRHマイナスの血液を使用する.このため血液型検査は病院到着後できるだけ早く行う.

4. 大量輸血プロトコール
 出血性ショックに際し各医療機関ごとに大量輸血プロトコールが運用されている.以前は酸素運搬能の維持が主たる目的であったが現在は凝固能異常,血小板減少の予防に重点がおかれたプロトコールとなっている.濃厚赤血球 : 新鮮凍結血漿 : 濃厚血小板=1:1:1での投与が推奨され,大量輸血プロトコールもこの組成に準じた構成となっている.

 外傷患者に対する輸血は凝固・止血能の維持に重点を置いた管理によって良好な成績が得られている.今後も症例を重ねることによってこの輸血管理がbrush upされることが期待される.
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