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術前スタチン投与は周術期心血管系合併症を減らす [抄読会]

Evidence of Pre-Procedural Statin Therapy: A Meta-Analysis of Randomized Trials

【目的】
 本研究の目的は術前スタチン投与が術後転帰に与える影響を研究したRCTを対象に多変量解析を行うことである.

【背景】
 カテーテルインターベンション(PCI)や外科手術などの侵襲的な処置は心筋梗塞を始めとする重篤な周術期心血管系イベントを引き起こす可能性がある.本研究では術前スタチン投与を行った症例では臨床転帰が改善するという仮説を立てた.

【方法】
 2010年2月まで侵襲的処置(PCI,CABG,非心臓手術)に対して術前スタチン投与を行い臨床転帰を検討した無作為化対照試験をMEDLINE,Cochraneおよびclinicaltrials. govより抽出した.対象は術前よりスタチン投与を開始し臨床転帰を報告した研究とした.DerSimonian-Lairdモデルを用い,変量効果モデルによる要約リスク比を算出した.

【結果】
 スクリーニングした試験の8%(21/270)が本研究の対象となり,症例数は4,805例であった.術前スタチン投与により周術期心筋梗塞が有意に減少した(Risk ratio [RR]: 0.57,95%信頼区間[CI]: 0.46-0.70,p<0.0001).この結果はPCI(p<0.0001)と非心臓手術(p=0.004)では認められたが,CABG(p=0.40)では認められなかった.全死因死亡率は術前スタチン投与により低下したが有意差を認めなかった(RR: 0.66,95% CI: 0.37-1.17,p=0.15).さらに術前スタチン投与により,CABG施行後の心房細動も減少した(RR: 0.54,95%CI: 0.43-0.68,p<0.0001).

【結論】
 術前スタチン投与により周術期心筋梗塞の危険性は有意に低下する.さらに術前スタチン投与によってCABG施行後の心房細動のリスクも低下する.術前スタチン投与のルーチン使用を考慮すべきである.

【解説】
 術後心筋梗塞を始めとした周術期合併症の予防にはβ遮断薬が有効であるとされ広く使用されてきた.しかしβ遮断薬使用に伴う合併症(徐脈・低血圧)が転帰を悪化させると報告されたため1),2009年に改訂されたACC/AHA非心臓手術のための周術期血管系評価・管理ガイドライン2)において術前の新規β遮断薬投与に関しては慎重に行うよう変更された.
 スタチンはコレステロール合成を低下させる高脂血症治療薬である.さらに近年活性酸素種の産生抑制,血栓形成傾向の改善,炎症の抑制などが報告され,高脂血症症例だけでなく周術期への応用が試みられ良好な結果を得ている3).そして本研究はこれらの結果を追認するものである.現在ACC/AHA非心臓手術のための周術期血管系評価・管理ガイドライン2)においては術前投与症例は継続(ClassⅠ),血管手術では高リスク症例でなくてもスタチン投与は妥当(ClassⅡa)の推奨をうけている.今後周術期スタチン投与はさらに推奨されるであろう.

【参考文献】
1) POISE Study Group : Lancet. 2008;371:1839-47
2) Fleisher LA et al: Circulation 2009;120:e169-e276
3) Hackam DG et al: Lancet. 2006;367:413-8

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