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術中回収式自己血輸血 [抄読会]

Cell salvage as part of a blood conservation strategy in anaesthesia.

1. 術中回収式自己血輸血の原理
 術中回収式自己血輸血システムは術野の血液を回収し,遊離ヘモグロビン,血漿成分,血小板,白血球,ヘパリンを除去した50-80% のへマトクリット値を持つ濃厚洗浄赤血球液を精製する.この濃厚洗浄赤血球液は精製後6時間の使用が可能である.一方,最近の研究では精製後18時間まで安全性が確認されたと報告されている.

2. 術中回収式自己血輸血の適応
 AAGBIのガイドラインでは術中回収式自己血輸血の適応として1000mL以上または循環血液量の20%以上の出血が予想されている症例,術前ヘモグロビン値が低い症例,出血の危険性が高い症例,多くの不規則抗体を持つ症例,血液型がRh(-)の症例を挙げている.これらの症例に術中回収式自己血輸血を行うことによって同種血輸血の輸血量を減らすことができる.

3. 術中回収式自己血輸血の利点
 同種血輸血は赤血球の形状変化能が低下しているため,末梢組織への酸素供給が充分に行われないことが考えられる.さらに2,3-DPGは採血後直線的に低下し2週間で枯渇するため酸素かい離曲線が左方移動し,組織で酸素は放しにくくなる.このため,同種血輸血は組織への酸素供給に必ずしも有利に働かない.一方,術中回収式自己血輸血では赤血球の形状変化能,2,3-DPGは維持されるため末梢組織への酸素供給に有利に働く.
さらに同種血輸血によって免疫修飾現象が生じる.免疫修飾現象とは基本的には免疫抑制作用として理解され,その発生には,主として輸血血液に混在する白血球やその関連物質が関与するものと考えられている.同種血輸血によるがん転移増加の報告は多い.
また同種血輸血は多形核白血球を活性化して炎症性サイトカインを放出する.術中回収式自己血輸血はこれらのことを回避することが可能である.

4. 術中回収式自己血輸血の欠点
 現在,術中回収式自己血輸血システムの改良によって術中回収式自己血輸血の欠点はほとんど認められない.洗浄の際,凝固因子・血小板が除去されるため,凝固異常の発症が懸念されるが,3L以内の出血であれば凝固異常は発症しないと報告されている.また,精製後 6時間以内であれば血液の汚染も問題ないとされている.

5. 術中回収式自己血輸血の新たな展開
 術中回収式自己血輸血は整形外科・心臓血管外科で特に使用されており,その有効性を論じた報告も多い.一方,以前は禁忌とみられていた領域にも術中回収式自己血輸血はその適用を広げ新たな展開を見せている.
a. 産科
 産科において出血は5大死因の一つである.産科では羊水塞栓,胎児血による同種免疫を懸念して回収式自己血輸血は行われていなかった.しかし,白血球除去フィルター使用によって羊水塞栓を予防できることが報告された.一方,フィルターを使用しても胎児血による同種免疫の危険性は減らないが,正常分娩ではその危険性は低いと思われる.現在では産科領域でも白血球除去フィルター使用の上回収式自己血輸血を行うことが推奨されている.

b. 担ガン症例
 担ガン症例も播種を懸念して術中回収式自己血輸血は行われてこなかった.白血球除去フィルター使用によってがん細胞はほぼ除去され転移の危険性はないと報告されている.さらに同種血輸血の使用によって免疫は低下しがん再発の危険性は高まることから,今後担ガン症例に対しても積極的に術中回収式自己血輸血は行われるかもしれない.

c. 感染症
 感染症合併症例に対しても感染症の拡大を懸念して術中回収式自己血輸血は行われてこなかった.感染症に対しても白血球除去フィルターを使用してほぼ細菌を除去することができると報告されている.同種血輸血使用よって免疫は低下し感染症は悪化する可能性がある.感染症症例に対して回収式自己血輸血も考慮すべきである.

 以上,術中回収式自己血輸血について概説した.現在,術中回収式自己血輸血は整形外科,心臓血管外科だけでなく白血球除去フィルターを使用することによって産科,悪性疾患,感染症症例へと適応を広げている.同種血輸血を回避または減量するため,術中回収式自己血輸血は輸血拒否症例を除きすべての症例に適応を広げていくものと思われる.

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