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周術期心房細動 その5 [周術期心房細動]

両心房ペーシング
 従来から心房性期外収縮が術後心房細動の一因であるとされ,期外収縮より早い心拍でペーシングすることによって術後心房細動を予防できるとされてきた.メタ解析においても単心房ペーシング,両心房ペーシングいずれも有意に術後心房細動を減らすことが示された1-3). Fan Kらはこれら2つの心房ペーシング法を比較し,心房間伝導の維持に有利な両心房ペーシングの方が単心房ペーシングよりも有効であると報告している4).その一方で両心房ペーシングは術前の準備が不必要で副作用も少ないが,手技的に煩雑であるため心房細動予防のために採用している施設は少数にとどまっている.

心拍動下冠動脈バイパス術
 冠動脈バイパス術には従来からの体外循環を使用した冠動脈バイパス手術と体外循環を使用しない心拍動下冠動脈バイパス手術(off-pump coronary artery bypass grafting: OPCAB)がある.心拍動下冠動脈バイパス手術では,大動脈への操作が少ないため術後中枢神経系合併症を回避することが期待される.そのためOPCABは中枢神経系に危険因子を持つ症例を中心に施行されてきた.その後使用器具,周術期管理の進歩によって適応が拡大され,本邦においては現在,単独冠動脈バイパス手術の60%でOPCABが施行されている.さらにOPCAB施行症例は従来の体外循環を使用した冠動脈バイパス手術と比較して術後心房細動の発症頻度を減少させると報告されている5).術後心房細動の術中危険因子として体外循環使用に伴う心房の損傷,脱血管の挿入,急激な循環血液量の変化等が挙げられているが,OPCABでは体外循環を使用しないため,術後心房細動の発症頻度が減少すると考えられる.

【参考文献】
1. Burgess DCet al. Eur Heart 27;2006:2846-57
2. Crystal E et al. Circulation. 106;2002:75-80
3. Daoud EG et al. J Cardiovasc Electrophysiol. 14;2003:127-32
4. Fan K et al. Circulation. 102;2000:755-60
5. Wijeysundera DN et al. J Am Coll Cardiol. 46;2005:872-82

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周術期心房細動 その4 [周術期心房細動]

β遮断薬
 β遮断薬は刺激伝導系細胞や心筋細胞への直接的な抗不整脈作用を有しており,Vaughan Williams分類Ⅱ群の抗不整脈に分類される薬剤である.β遮断薬は頻脈性頻脈1),上室性不整脈2),さらにリドカイン抵抗性の心室細動3)に対する有効性が報告されている.周術期心房細動に対してもβ遮断薬の周術期予防的投与が試みられているが,その結果,β遮断薬による周術期心房細動の抑制が多くの試験から報告され,アミオダロンとともに周術期心房細動を予防する薬剤としての地位を確立している4-8).その結果,β遮断薬はACC/AHA冠動脈バイパスガイドライン9)においてはClass Ⅰで勧告(LOE B),ACC/AHA/ESC心房細動治療ガイドライン10)においてClass Ⅰで推奨(LOE A)された標準的な術後心房細動予防薬となった.さらに周術期のβ遮断薬投与は周術期心房細動だけでなく非心臓手術の周術期心血管系イベント,死亡率を低下させると報告されてきた11-17).しかし,周術期のβ遮断薬使用に関する二重盲検無作為プラセボ対照試験の有力な報告の一つであるPoldermanらの報告14)では,β遮断薬の周術期心血管事故低下作用が非致死性心筋梗塞の相対危険率軽減が100%であり,通常の循環器系疾患を対象にした試験の相対危険率軽減率が20-30%であるのと比較するとあまりにもβ遮断薬の心事故に対する危険率軽減が高すぎるとされ,周術期のβ遮断薬予防的投与の是非はPOISE trial18)の結果を待つこととなった.周術期β遮断薬投与への懐疑的な見方が広がる中,Lindenauerらは高リスク症例ではβ遮断薬の予防的投与が有効である反面,低リスク症例ではβ遮断薬投与によって逆に予後が悪化する可能性があると報告した19).そしてPOISE trialは周術期β遮断薬投与によって心血管イベントは減少するものの全死亡率,脳卒中発症率はβ遮断薬投与によって有意に増加すると報告し,低血圧と死亡率,脳卒中が関連すると結論づけた.POISE trialを含めた33研究のRCTを対象としたメタ解析20)においてもβ遮断薬投与によって心筋虚血は減少するものの脳梗塞,治療を要する徐脈,低血圧は増加することが示され,予防的β遮断薬の投与に関して改めて注意を喚起することとなった.現在,ACC/AHA非心臓手術のための周術期心血管系評価・管理ガイドライン21)では,服用中のβ遮断薬は継続(ClassⅠ; LOE C),血管手術・高リスク手術ではβ遮断薬の投与を推奨(ClassⅡa; LOE B)しているが,新たに徐脈・低血圧に注意して使用するよう明記されている.さらに低リスク症例に対する使用は明らかでない(ClassⅡb;LOE B),周術期に新たに開始する高用量β遮断薬の投与は有害である(ClassⅢ;LOE B)としてβ遮断薬の盲目的な使用に警鐘を鳴らしている.
 現時点では,β遮断薬,アミオダロンの周術期予防投与は共にリスクの少ない症例では有効でない可能性があると考えられる.投与の際には副作用,特に徐脈,低血圧に対する注意が必要である.

【参考文献】
1. Atarashi H et al. Clin Pharmacol Ther. 2000;68:143-50
2. Balser JR et al. Anesthesiology. 1998;89:1052-9
3. van Dantzig JM et al. J Cardiothorac Vasc Anesth. 1991;5:600-3
4. Andrews TC et al. Circulation. 1991;84(Suppl):III236-44
5. Ferguson TB Jret al. JAMA. 2002;287:2221-7
6. Coleman CI et al. Ann Pharmacother. 2004;38:2012-6
7. Crystal E et al. Cochrane Database Syst Rev. 2004:CD003611
8. Burgess DC et al. Eur Heart J. 2006;27:2846-57
9. Eagle KA et al. Circulation. 2004;110:e340-437
10. Fuster V et al. Circulation. 2006;114:e257-354
11. Stone JG et al. Anesthesiology. 1988;68:495-500
12. Mangano DT et al. N Engl J Med. 1996;335:1713-20
13. Wallace A et al. Anesthesiology. 1998;88:7-17
14. Poldermans D et al. N Engl J Med. 1999;341:1789-94
15. Poldermans D et al. Eur Heart J. 2001;22:1353-8
16. Raby KE et al. Anesth Analg. 1999;88:477-82
17. Auerbach AD et al. JAMA. 2002;287:1435-44
18. POISE Study Group. Lancet. 2008;371:1839-47
19. Lindenauer PK et al. N Engl J Med. 2005;353:349-61
20. Bangalore S et al. Lancet. 2008;372:1962-76
21. Fleisher LA et al. Circulation. 2009;120:e169-276

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周術期心房細動 その3 [周術期心房細動]

2. 周術期心房細動の予防
a. 従来の周術期心房細動の予防法
 従来,周術期心房細動に対しては非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬,ジギタリスが使用されてきた.非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬は上室性頻脈に対して有効であるとされる一方で1) ,房室ブロック,心不全などの副作用が多いことが問題となっている.このため,Ca拮抗薬の予防的投与は慎重に行わなければならない.ジギタリスも周術期心房細動予防のメタ解析において有効性を示すことができなかった.周術期心房細動は交感神経系の緊張が一因であるために副交感神経に作用するジギタリスでは予防効果は得られにくいことが理由として挙げられる1,2)

b. 現在試みられている予防法
抗炎症薬
 周術期心房細動を発症した症例は洞調律維持症例と比較してCRP,白血球数,炎症性サイトカインの値が有意に高いため,炎症性の反応が周術期心房細動の一因であると考えられている3,4) .これを受けて抗炎症薬である副腎皮質ホルモン5) ,非ステロイド性消炎鎮痛薬6) の予防的投与の有効性が報告されている.

スタチン
 スタチンはACC/AHA非心臓手術のための周術期心血管系評価・管理ガイドライン7) において新規に追加された薬剤である.スタチン療法は血管内皮細胞の機能を改善し,炎症を抑える.その結果,周術期心房細動だけでなく周術期心血管系イベントを減少させると報告されている8,9).

マグネシウム
 周術期マグネシウム投与が抗不整脈薬同様周術期心房細動発症を抑制したと報告されているが10) ,研究,解析方法に議論の余地があるとされ,結論には至っていない.しかし,周術期心房細動発症症例では血清マグネシウム値が低いこと11) ,頻脈性不整脈とマグネシウムには深い関わりがあること12) から周術期心房細動に何らかの影響を与えている可能性は否定できない.

アミオダロン
 アミオダロンは遮断,遮断,Kチャネル遮断,Na,Ca遮断作用を持ったいわゆるマルチチャネルブロッカーであり,Vaughan Williams分類Ⅲ群の抗不整脈に分類される薬剤である.本邦においては薬剤不応性の不整脈,肥大型心筋症二伴う心房細動に対して使用されるが,欧米においては周術期心房細動予防に対する使用も報告されている.術前1週間経口投与13) ,術後静脈内投与14) ,周術期を通しての投与15) の有効性が報告され,ACC/AHA/ESC心房細動治療ガイドライン16) においてもアミオダロン投与は心房細動の高リスク症例への予防法として適切であるとClass Ⅱaで推奨されている(LOE A).その一方で,アミオダロンを周術期投与したプラセボ対照RCTのメタ解析では,アミオダロン投与によって副作用特に徐脈が1.7倍,低血圧が1.6倍に増加したことが示された17) .このことから,アミオダロンの予防的投与は周術期心房細動を発症するリスクの少ない症例に対する投与は避け,投与の際にも徐脈,低血圧などの副作用への注意が必要である.

【参考文献】
1. Andrews TC et al. Circulation.1991;84:III236–44
2. Podrid PJ. J Am Coll Cardiol.1999;34:340-2
3. Abdelhadi RH et al. Am J Cardiol. 2004;93:1176-8
4. Lamm G et al. J Cardiothorac Vasc Anesth. 2006;20:51-6
5. Halonen J et al. JAMA. 2007;297:1562-7
6. Cheruku KK et al. Prev Cardiol.2007;7 :13-8
7. Fleisher LA et al. Circulation. 2007;116:e418-99
8. Marin F et al. Am J Cardiol.2006;97:55-60
9. Patti G et al. Circulation. 2006;206:1455-61
10. Miller S et al. Heart. 2005;91:618-23
11. Satur CM. Ann R Coll Surg. 1997;79:349-54
12. Vyvyan HA et al. Anaesthesia. 2004;49:245-9
13. Daoud EG et al. N Engl J Med. 1997;337:1785-91
14. Guarnieri T et al. J Am Coll Cardiol. 1999;34:343-7
15. Mitchell LB et al. JAMA.2005;294:3093-100
16. Fuster V et al. Circulation. 2006;114:e257-354
17. Patel AA et al. Am J Health Syst Pharm. 2006;63:829-37

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周術期心房細動 その2 [周術期心房細動]

1. 周術期心房細動の特徴

 術後心房細動は,冠動脈バイパス術術後に最も多く発症する合併症であり,30%の症例に発症する.また弁置換術では30-40%,複合手術では40-50%で発症し1),非心臓手術である肺手術においても葉切除で10-20%,全摘術では40%の症例で発症すると報告されている2)
術後心房細動は術後2日目にもっとも多く発症し,その40%が再発する3).術後心房細動は周術期に一時的に発症するだけで生命予後に影響を及ぼすことは少ないと考えられてきたが,発症すると在院日数の延長だけでなく脳梗塞発症率は3倍になり,周術期死亡率も悪化する3).また周術期だけでなく遠隔期予後も悪化することが報告されている1)
術後心房細動の術前危険因子を表1に列挙する4).術後心房細動は特に高齢者では発症率が高い.従来から危険因子として挙げられていた左心房拡大,左心室肥大だけでなく,近年,糖尿病,肥満,メタボリック症候群と術後心房細動の関連が指摘されている5).周術期心房細動の心房細動の術中危険因子を表2に示す.心房の損傷,心房の虚血,脱血管挿入,急激な循環血液量変化,すなわち人工心肺装置導入,維持,離脱時における変化が術後心房細動の危険因子となる.さらに人工心肺装置使用に伴い炎症性反応も惹起されることも術後心房細動の誘因となり,人工心肺装置を使用した開心術では術後心房細動が発症しやすいと考えられている.続いて術後危険因子を表3に示す4).従来から容量過負荷,電解質異常,心房期外収縮,交感神経系の緊張の心房細動への関与は指摘されていたが,近年,それらの因子に加えて炎症性の反応が術後心房細動へ関与することが明らかになってきた6,7).上述したような周術期危険因子の解明により,術後心房細動の予防法,治療法は新たな展開を見せている.

表1.jpg 表2.jpg 表3.jpg

【参考文献】
1) Almassi GHet al. Ann Surg. 1997;226:501-11
2) De Decker Ket al.Ann Thorac Surg. 2003;75:1340-8
3) Villareal RP et al. J Am Coll Cardiol. 2004;43 :742-8
4) Echahidi N et al. J Am Coll Cardiol. 2008;51:793-801
5) Echahidi N et al. Circulation. 2007;116 :I213-9
6) Ishii Y et al. Circulation. 2005;111 :2881-8
7) Tselentakis EV et al. J Surg Res.2006;135 : 68–75

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周術期心房細動 その1 [周術期心房細動]

はじめに

 心臓血管手術術後に最も頻度が高い合併症は術後心房細動である(表)1).慢性心房細動を発症すると脳梗塞や心不全などの心血管系イベントは約2倍に増加することが知られていたが2),術後心房細動は慢性心房細動と異なり在院日数を多少延長させるものの生命予後に影響を与えることは少ないと考えられてきた.しかし,近年術後心房細動の発症が慢性心房細動と同様に心血管系イベントを含む多くの合併症に影響を与えている可能性が指摘され3),術後心房細動への関心が高まっている.術後心房細動には様々な因子が影響すると考えられ,有効性が認められた予防法,治療法も多岐にわたる.本稿では,術後心房細動の原因と特徴,予防法,発症した際の治療法について最新の知見を交え概説する.

表1.jpg

【参考文献】
1) Jin R et al. Circulation. 2005;112:I332-7
2) Benjamin EJ et al. Circulation. 1998;98:946-52
3) Villareal RP et al. J Am Coll Cardiol. 2004;43:742-8

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経カテーテル的大動脈弁留置術-PARTNER Trial [抄読会]

Transcatheter aortic-valve implantation for aortic stenosis in patients who cannot undergo surgery.

【背景】
 高リスク症例・大動脈高度石灰化症例では重症大動脈弁狭窄症があっても大動脈弁置換術の適応とならない.そのような高リスクの大動脈弁狭窄症患者に対する低侵襲な治療法として経カテーテル大動脈弁留置術(transcatheter aortic-valve implantation:TAVI)という新たな選択肢が提案されている.

【方法】
 手術不適応と判断された重症大動脈弁狭窄症患者を,バルーン大動脈弁形成術を行う群(control群)と,バルーン拡張型ウシ心膜弁を経大腿・経カテーテル的に留置する群(TAVI 群)に無作為に割り付け比較検討を行った.主要エンドポイントは経過観察中(中央値1.6年)の死亡率とした.

【結果】
 手術の適応が無いと診断された大動脈弁狭窄症患者21施設 358 例を無作為にcontrol群,TAVI群に分類した.1 年時の全死因死亡率は,TAVI 群 では30.7%であったが,control群では群50.7%であった(hazard ratio, 0.55; 95%信頼区間 [CI], 0.40~0.74; P<0.001).全死因死亡または再入院の複合割合は,TAVI 群 が42.5%であったのに対し,control群 は71.6%であった(hazard ratio, 0.46; 95%CI, 0.35~0.59; P<0.001).1年時生存症例で, NYHA分類で IIIまたは IV 度の症例数は,TAVI 群のほうが標準治療群より有意に少なかった(25.2% vs 58.0%; P<0.001).しかし30 日の時点では,TAVI 群はcontrol群と比較して脳卒中(5.0% vs 1.1%; P=0.06)と血管合併症(16.2% vs 1.1%; P<0.001)を多く発症した.TAVI 施術1 年後,心エコーによって狭窄・逆流などの弁機能異常を認めた症例はなかった.

【結論】
 手術の適応がないと診断された重症大動脈弁狭窄症患者に TAVI を施行した症例ではバルーン大動脈弁形成術を施行した症例と比較して脳卒中と血管合併症は多く発症したが,全死因死亡率,全死因死亡または再入院の複合割合は有意に低下し,心不全症状は有意に改善した.

【解説】
 TAVIは、大動脈弁狭窄を有するが手術の適応とならない症例に対する新たなアプローチ法として注目を集めている.現在のTAVIの適応は高度石灰化大動脈による手術禁忌症例や手術の高リスク症例である.しかし周術期死亡率は弁置換術が2%程度であるのに対してTAVIでは25%という報告も認められる.
TAVIには急性大動脈解離や左主幹部閉塞など施術に伴う合併症も多く報告され,本研究でも脳卒中,血管合併症を多く認めている.現在主流の大動脈弁置換術もデバイスの進歩によって高度石灰化症例のような症例にも施行されるようになってきた.よって現時点のTAVIの適応は大動脈弁狭窄症があるが手術適応がなく他に治療法がない症例に限定されるものと思われる.

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低侵襲心拍出量モニターの精度 [抄読会]

Minimally invasive measurement of cardiac output during surgery and critical care: a meta-analysis of accuracy and precision.

【背景】
 近年,熱希釈法による心拍出量測定の使用頻度は減少し,低侵襲心拍出量モニターを使用して血行動態を評価する症例が増加している.本研究では低侵襲心拍出量モニターの精度について熱希釈法を対照にmeta-analysisを行った.

【方法】
 2000年以降発表された熱希釈法と低侵襲心拍出量モニター(動脈圧波形解析法,経食道ドップラー法,部分二酸化炭素再呼吸法,インピーダンス心拍出量測定法)を比較した論文を対象とした.それぞれbias,precision,percentage errorの比較を行った.

【結果】
 47研究が本論文の対象となった.それぞれの方法の精度は以下の結果であった(N=研究数, n=測定数: bias±precision, percentage error).
動脈圧波形解析法(N=24, n=714: -0.00±1.22 l/min, 41.3%).経食道ドップラー法(N=2, n=57: -0.77±1.07 l/min, 42.1%).部分二酸化炭素再呼吸法(N=8, n=167: -0.05±1.12 l/min, 44.5%).インピーダンス心拍出量測定法(N=13, n=435: -0.10±1.14 l/min, 42.9%).

【結論】
 低侵襲心拍出量モニターは現在でも精度は熱希釈法に及ばない.低侵襲心拍出量モニター使用の際は精度の限界を踏まえて使用する必要がある.

【解説】
 肺動脈カテーテルを使用した熱希釈法は現在でも心拍出量測定のgolden standardであり,新しい心拍出量測定法が開発された際にはreference methodとして使用される正確な方法である.しかし肺動脈カテーテル挿入症例の9.5%に合併症が認められると報告され1),より低侵襲・正確な心拍出量モニターの開発が期待されている.近年,経食道心エコーを使用した心拍出量測定法が熱希釈法と同程度の精度であり,reference methodとして使用されつつある2,3).一方で経食道心エコーは習熟・測定に時間を要することから術中使用には難しい場面も多い.
 本研究では4種類の低侵襲心拍出量モニターについて検討を行い,いずれの方法も熱希釈法と比較すると心拍出量測定の精度が劣ることが示された.臨床上これらのモニターの精度が問題になることは少ないが,低侵襲心拍出量モニター使用の際は心拍出量測定値が真の心拍出量と乖離している可能性があることを念頭に置いて使用しなければならない.

【参考文献】
1) Harveys S et al. Lanset 2005; 366:472-7
2) Schmidt C et al. Br J Anesth. 2005;95:603-10
3) Imakiire N et al. J Anesth. 2010;24:511-7
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PBLD 虚血性心疾患を合併した症例に対する非心臓手術の麻酔 その10 [PBLD]

【手術は終了し麻酔から覚醒・抜管後,集中治療室へ入室した.】

【問題1】
  術後管理に関して適切なものは? (複数選択可)

1. 抗血小板薬は早期に再開する
2. ヘモグロビン濃度は12g/dl以上を維持する
3. 発作性心房細動の治療にはジギタリスが第一選択である
4. 周術期心筋梗塞の特徴は非Q波心筋梗塞である
5. 心筋虚血による心電図変化は壁運動異常に先行する

【解説】
1. 抗血小板薬
 本症例はDES留置後4ヶ月しか経過していない.飲水開始まではヘパリン投与,飲水開始とともに抗血小板薬二剤併用療法を再開する.

2. 周術期ヘモグロビン値管理
 周術期の輸血に関しては慣習的に10/30ルール(ヘモグロビン値10g/dL,ヘマトクリット30%)維持が行われていた.しかし,ヘモグロビン値を高め(10-12g/dL)に維持しても低め(7-9g/dL)で管理しても予後は変わらず,むしろリスクが低い症例では低めに維持すると予後が良好であることが報告され1)赤血球輸血の適応は見直されることとなった.一方,高リスク症例では低リスク症例よりも高めのヘモグロビン値維持が必要であると予想される.心疾患を合併した症例ではヘモグロビン値が8g/dLを下回ると死亡率が2.5倍に高まることが報告されている2)ことから本症例では8-10g/dLの維持が望ましい.

3. 周術期心房細動
 術後心房細動は,開心術術後の最も頻度が高い合併症であるが,非心臓手術でもしばしば発症する.術後心房細動は周術期に一時的に発症するだけで生命予後に影響を及ぼすことは少ないと考えられてきたが,発症すると在院日数の延長だけでなく脳梗塞発症率は3倍になり,周術期死亡率も悪化する3).また周術期だけでなく遠隔期予後も悪化することが報告されている4).このため術後心房細動の予防法の確立が急務となっている.
術後心房細動の予防薬剤として従来は非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬,ジギタリスが使用されてきた.しかし,非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬が術後心房細動の予防に有効であると報告される一方,房室ブロックや心不全の原因になりやすいとされ,現在は安全が確認されるまでCa拮抗薬の予防的投与は慎重にすべきとされている5). ジギタリスは,心抑制がないため,従来から循環動態が不安定な周術期に使用されてきた.一方,交感神経系の緊張が術後心房細動の一因であることが明らかになり,現在では副交感神経に作用するジギタリスは術後心房細動に対する効果が得られにくいと考えられている5).現在,術後心房細動の予防薬としてβ遮断薬,治療薬としてⅠ群抗不整脈薬・β遮断薬などが使用されている.

4. 周術期心筋梗塞
 周術期心筋梗塞は非Q波心筋梗塞を特徴とする.Q波はST上昇に遅れて出現する(数時間-12時間).このため周術期心筋梗塞初期には確認されないことが多い.

5. ischemic cascade
 虚血による壁運動異常は心電図変化に先行する (図).よって心筋虚血は心電図より先にエコーで検出可能である.

【解答】 1,4

PBLD09症例解説.jpg
              図. ischemic cascade

【参考文献】
1) Hebert PC et al. N Engl J Med 1999;340:409-17
2) Carson JL et al. Transfusion 2002;42:812-8
3) Villareal RP et al: J Am Coll Cardiol. 43 :742-8,2004
4) Almassi GH et al: Ann Surg. 226 :501-11,1997
5) Echahidi N et al : J Am Coll Cardiol. 2008;51:793-801
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PBLD 虚血性心疾患を合併した症例に対する非心臓手術の麻酔 その9 [PBLD]

【問題9】
 本症例では麻酔薬として薬理学的プレコンディショニング作用を持つセボフルランを使用した.プレコンディショニングについて間違っているものは?

1. 虚血プレコンディショニングは薬理学的プレコンディショニング作用とメカニズムが共通している.
2. β遮断薬はプレコンディショニング作用を持っている.
3. PDEⅢ阻害薬はプレコンディショニング作用を持っている.
4. 糖尿病はプレコンディショニング作用を減弱する.
5. オピオイドはプレコンディショニング作用を持っている.

【解説】
 虚血プレコンディショニングとは先行する短時間虚血により耐性を生じ,後の長時間虚血において虚血再灌流障害の軽減が得られる現象と定義される1).プレコンディショニングに関するメディエータとしてアデノシン,PKC,ROS,NO,エフェクタとしてATP感受性Kチャネル,mPTPが重要である.この先行虚血の代わりにミトコンドリア代謝を制御してプレコンディショニング作用獲得することを薬理学的プレコンディショニング作用という.薬理学的プレコンディショニング作用を持つ薬剤としてアデノシン受容体作動薬,KATPチャネル開口薬,揮発性麻酔薬,PDEⅢ阻害薬などがある.オピオイドにもプレコンディショニング作用が報告されている2).しかしプレコンディショニング作用を獲得するためには臨床使用濃度の数倍から数十倍の投与量が必要であるためこの目的での使用は難しい.
 一方,薬理学的プレコンディショニングは加齢,糖尿病,高コレステロール血症などで作用が減弱することが報告されている3).またβ遮断薬もプレコンディショニング作用を打ち消す可能性が示唆されている4)

【正解】 2

【参考文献】
1. Murry CE et al: Circulation 1986;74:1124-36
2. Zhang Y et al: Anesthesiology 2004;101:918-23
3. Mio Y et al: Anesthesiology 2008;108:612-20
4. Lange M et al : Anesthesiology. 2008;109:72-80
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PBLD 虚血性心疾患を合併した症例に対する非心臓手術の麻酔 その8 [PBLD]

【問題8】
 バイオマーカーの中で心筋梗塞の診断に最も有用なものは?

1. CK-MB
2. トロポニンT
3. NT-proBNP
4. ヒト心臓由来脂肪酸結合タンパク質(HFABP)
5. ミオグロビン

【解説】
1.CK-MB
 CK-MBは発症4時間から上昇し,12-24時間でピークに達する.その後48-72時間には正常値にもどる.
心筋への特異性が高いが骨格筋にも含まれており,筋ジストロフィー,横紋筋融解症,皮膚筋炎,甲状腺機能低下症などで上昇することがある.また,虚血発症後3日で正常値に戻るため,発症からの時間が長い場合には評価が困難なこともある.このため近年ではgold standardの地位を心筋トロポニンに譲っている1)

2. 心筋トロポニンT
 心筋特異性が高く,正常では検出されない.発症4時間より上昇し,12-24時間でピークに達する.その後心筋トロポニンTは10-14日検出される.以前は心筋トロポニンが腎代謝であることから腎機能障害合併症例では正常でも検出される可能性があるとされていた.しかし現在では腎機能障害合併症例では潜在的に心筋障害を認める症例が多いためトロポニンが検出されると理解されている1)

3. NT-proBNP
 BNPはMI発症後24時間までにピークに達し,その値は梗塞サイズに比例する.また,ピークのBNP値が予後の予測因子であるとの報告も認められる.一方で,基本的にはBNP,NT-proBNPは心不全のバイオマーカーであり,急性冠症候群では心筋トロポニンを補完する立ち位置にあると考えられる2)

4. ヒト心臓由来脂肪酸結合タンパク質(HFABP)
 ヒト心臓由来脂肪酸結合タンパク質(HFABP)は発症 2時間以内の心筋障害が診断可能である.HFABPは脂肪酸結合蛋白(FABP)を心筋特異抗体によって分別定量したものであるが,骨格筋にも含まれているため心筋特異性は必ずしも高くない1)

5. ミオグロビン
 ミオグロビンも早期より検出される(1-3時間)が,骨格筋にも多く含まれているため心筋特異性は低い1)

【解答】 2

【参考文献】
1) Morrow DA et al. Circulation. 2007;115:e356-75
2) Tang WH et al. Circulation. 2007;116:e99-109
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