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周術期心房細動 その7 [周術期心房細動]

おわりに

 術後心房細動の生命予後への影響が指摘されて以来,術後心房細動に関する様々な知見が得られ,予防法,治療法へ応用されてきたが,今もなお,最も頻度が高い合併症のままである.術後心房細動は予防が最重要課題であるが,そのためには,周術期の管理だけでなく他のアプローチ法が必要である.肥満,糖尿病,メタボリック症候群等の生活習慣病の術後心房細動への関与が報告された.現在の予防法に生活習慣管理を組み合わせることによって術後心房細動制御は新たな展開を見せる可能性を秘めている.

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周術期心房細動 その6 [周術期心房細動]

3.周術期心房細動の治療

 通常,周術期心房細動は持続時間が短く,また,治療を必要としない症例も多い.しかし,心機能低下症例,心拍数が130/minを超える症例,心房細動の持続時間が24時間を超える症例,中枢神経系合併症の高リスク症例では治療が必要になる.治療法としては慢性心房細動に対する治療法と同様に洞調律維持療法,心拍数維持療法,そして抗血栓療法が挙げられる.
 周術期心房細動を発症するとatrial kickが消失するため20-30%心拍出量が低下する.心臓手術術後しばしば認められる循環動態が不安定な症例では洞調律が有利であるため,管理法として洞調律維持療法が推奨される1).洞調律への復帰にはフレカイニド,プロパフェノンが有効であるとされるが(表1),効果が得られない場合は直流徐細動を施行する2).一方,これらの処置を行っても洞調律へ復帰しない症例が散見される.慢性心房細動に対する治療法を比較検討したAFFIRM study3)においては心拍数維持療法の洞調律維持療法に対する優位性が示された.その理由として洞調律維持のための抗不整脈薬の副作用,特に心抑制を挙げている.術後心房細動においても抗不整脈薬反復使用によりさらに循環動態の悪化が進行する可能性があるため,洞調律維持が困難な症例では心拍数維持に努める.
 循環動態が安定している症例では心拍数維持療法を行う(表2).β遮断薬,Ca拮抗薬,アミオダロンを使用し,心拍数を管理する.AHA/ACC/ESCガイドライン2)では,安静時の心拍数を75/min,運動時の心拍数を90-115/minで管理することが推奨されている.周術期に関しても運動時に準じて90-115/minの心拍数で管理を行う.
 周術期心房細動発症後24時間を経過した症例,脳梗塞,一過性脳虚血の既往がある症例では心拍数維持療法に加えて抗血栓療法を併用する.70歳未満ではPT-INRを2.0-3.0で管理し,70歳以上ではPT-INRを1.6-2.6で管理する1).洞調律復帰後も心房はstunningを起こしている可能性があるため,洞調律復帰後も30日は抗血栓療法を継続する4)

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【参考文献】
1. Echahidi N et al. J Am Coll Cardiol. 51;2008:793-801
2. Fuster V et al. Circulation. 114;2006:e257-354
3. Polman CH et al. N Engl J Med. 354;2006:899-910,2006
4. Epstein AE et al. Chest 128;2005:24S-27S

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周術期心房細動 その5 [周術期心房細動]

両心房ペーシング
 従来から心房性期外収縮が術後心房細動の一因であるとされ,期外収縮より早い心拍でペーシングすることによって術後心房細動を予防できるとされてきた.メタ解析においても単心房ペーシング,両心房ペーシングいずれも有意に術後心房細動を減らすことが示された1-3). Fan Kらはこれら2つの心房ペーシング法を比較し,心房間伝導の維持に有利な両心房ペーシングの方が単心房ペーシングよりも有効であると報告している4).その一方で両心房ペーシングは術前の準備が不必要で副作用も少ないが,手技的に煩雑であるため心房細動予防のために採用している施設は少数にとどまっている.

心拍動下冠動脈バイパス術
 冠動脈バイパス術には従来からの体外循環を使用した冠動脈バイパス手術と体外循環を使用しない心拍動下冠動脈バイパス手術(off-pump coronary artery bypass grafting: OPCAB)がある.心拍動下冠動脈バイパス手術では,大動脈への操作が少ないため術後中枢神経系合併症を回避することが期待される.そのためOPCABは中枢神経系に危険因子を持つ症例を中心に施行されてきた.その後使用器具,周術期管理の進歩によって適応が拡大され,本邦においては現在,単独冠動脈バイパス手術の60%でOPCABが施行されている.さらにOPCAB施行症例は従来の体外循環を使用した冠動脈バイパス手術と比較して術後心房細動の発症頻度を減少させると報告されている5).術後心房細動の術中危険因子として体外循環使用に伴う心房の損傷,脱血管の挿入,急激な循環血液量の変化等が挙げられているが,OPCABでは体外循環を使用しないため,術後心房細動の発症頻度が減少すると考えられる.

【参考文献】
1. Burgess DCet al. Eur Heart 27;2006:2846-57
2. Crystal E et al. Circulation. 106;2002:75-80
3. Daoud EG et al. J Cardiovasc Electrophysiol. 14;2003:127-32
4. Fan K et al. Circulation. 102;2000:755-60
5. Wijeysundera DN et al. J Am Coll Cardiol. 46;2005:872-82

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周術期心房細動 その4 [周術期心房細動]

β遮断薬
 β遮断薬は刺激伝導系細胞や心筋細胞への直接的な抗不整脈作用を有しており,Vaughan Williams分類Ⅱ群の抗不整脈に分類される薬剤である.β遮断薬は頻脈性頻脈1),上室性不整脈2),さらにリドカイン抵抗性の心室細動3)に対する有効性が報告されている.周術期心房細動に対してもβ遮断薬の周術期予防的投与が試みられているが,その結果,β遮断薬による周術期心房細動の抑制が多くの試験から報告され,アミオダロンとともに周術期心房細動を予防する薬剤としての地位を確立している4-8).その結果,β遮断薬はACC/AHA冠動脈バイパスガイドライン9)においてはClass Ⅰで勧告(LOE B),ACC/AHA/ESC心房細動治療ガイドライン10)においてClass Ⅰで推奨(LOE A)された標準的な術後心房細動予防薬となった.さらに周術期のβ遮断薬投与は周術期心房細動だけでなく非心臓手術の周術期心血管系イベント,死亡率を低下させると報告されてきた11-17).しかし,周術期のβ遮断薬使用に関する二重盲検無作為プラセボ対照試験の有力な報告の一つであるPoldermanらの報告14)では,β遮断薬の周術期心血管事故低下作用が非致死性心筋梗塞の相対危険率軽減が100%であり,通常の循環器系疾患を対象にした試験の相対危険率軽減率が20-30%であるのと比較するとあまりにもβ遮断薬の心事故に対する危険率軽減が高すぎるとされ,周術期のβ遮断薬予防的投与の是非はPOISE trial18)の結果を待つこととなった.周術期β遮断薬投与への懐疑的な見方が広がる中,Lindenauerらは高リスク症例ではβ遮断薬の予防的投与が有効である反面,低リスク症例ではβ遮断薬投与によって逆に予後が悪化する可能性があると報告した19).そしてPOISE trialは周術期β遮断薬投与によって心血管イベントは減少するものの全死亡率,脳卒中発症率はβ遮断薬投与によって有意に増加すると報告し,低血圧と死亡率,脳卒中が関連すると結論づけた.POISE trialを含めた33研究のRCTを対象としたメタ解析20)においてもβ遮断薬投与によって心筋虚血は減少するものの脳梗塞,治療を要する徐脈,低血圧は増加することが示され,予防的β遮断薬の投与に関して改めて注意を喚起することとなった.現在,ACC/AHA非心臓手術のための周術期心血管系評価・管理ガイドライン21)では,服用中のβ遮断薬は継続(ClassⅠ; LOE C),血管手術・高リスク手術ではβ遮断薬の投与を推奨(ClassⅡa; LOE B)しているが,新たに徐脈・低血圧に注意して使用するよう明記されている.さらに低リスク症例に対する使用は明らかでない(ClassⅡb;LOE B),周術期に新たに開始する高用量β遮断薬の投与は有害である(ClassⅢ;LOE B)としてβ遮断薬の盲目的な使用に警鐘を鳴らしている.
 現時点では,β遮断薬,アミオダロンの周術期予防投与は共にリスクの少ない症例では有効でない可能性があると考えられる.投与の際には副作用,特に徐脈,低血圧に対する注意が必要である.

【参考文献】
1. Atarashi H et al. Clin Pharmacol Ther. 2000;68:143-50
2. Balser JR et al. Anesthesiology. 1998;89:1052-9
3. van Dantzig JM et al. J Cardiothorac Vasc Anesth. 1991;5:600-3
4. Andrews TC et al. Circulation. 1991;84(Suppl):III236-44
5. Ferguson TB Jret al. JAMA. 2002;287:2221-7
6. Coleman CI et al. Ann Pharmacother. 2004;38:2012-6
7. Crystal E et al. Cochrane Database Syst Rev. 2004:CD003611
8. Burgess DC et al. Eur Heart J. 2006;27:2846-57
9. Eagle KA et al. Circulation. 2004;110:e340-437
10. Fuster V et al. Circulation. 2006;114:e257-354
11. Stone JG et al. Anesthesiology. 1988;68:495-500
12. Mangano DT et al. N Engl J Med. 1996;335:1713-20
13. Wallace A et al. Anesthesiology. 1998;88:7-17
14. Poldermans D et al. N Engl J Med. 1999;341:1789-94
15. Poldermans D et al. Eur Heart J. 2001;22:1353-8
16. Raby KE et al. Anesth Analg. 1999;88:477-82
17. Auerbach AD et al. JAMA. 2002;287:1435-44
18. POISE Study Group. Lancet. 2008;371:1839-47
19. Lindenauer PK et al. N Engl J Med. 2005;353:349-61
20. Bangalore S et al. Lancet. 2008;372:1962-76
21. Fleisher LA et al. Circulation. 2009;120:e169-276

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周術期心房細動 その3 [周術期心房細動]

2. 周術期心房細動の予防
a. 従来の周術期心房細動の予防法
 従来,周術期心房細動に対しては非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬,ジギタリスが使用されてきた.非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬は上室性頻脈に対して有効であるとされる一方で1) ,房室ブロック,心不全などの副作用が多いことが問題となっている.このため,Ca拮抗薬の予防的投与は慎重に行わなければならない.ジギタリスも周術期心房細動予防のメタ解析において有効性を示すことができなかった.周術期心房細動は交感神経系の緊張が一因であるために副交感神経に作用するジギタリスでは予防効果は得られにくいことが理由として挙げられる1,2)

b. 現在試みられている予防法
抗炎症薬
 周術期心房細動を発症した症例は洞調律維持症例と比較してCRP,白血球数,炎症性サイトカインの値が有意に高いため,炎症性の反応が周術期心房細動の一因であると考えられている3,4) .これを受けて抗炎症薬である副腎皮質ホルモン5) ,非ステロイド性消炎鎮痛薬6) の予防的投与の有効性が報告されている.

スタチン
 スタチンはACC/AHA非心臓手術のための周術期心血管系評価・管理ガイドライン7) において新規に追加された薬剤である.スタチン療法は血管内皮細胞の機能を改善し,炎症を抑える.その結果,周術期心房細動だけでなく周術期心血管系イベントを減少させると報告されている8,9).

マグネシウム
 周術期マグネシウム投与が抗不整脈薬同様周術期心房細動発症を抑制したと報告されているが10) ,研究,解析方法に議論の余地があるとされ,結論には至っていない.しかし,周術期心房細動発症症例では血清マグネシウム値が低いこと11) ,頻脈性不整脈とマグネシウムには深い関わりがあること12) から周術期心房細動に何らかの影響を与えている可能性は否定できない.

アミオダロン
 アミオダロンは遮断,遮断,Kチャネル遮断,Na,Ca遮断作用を持ったいわゆるマルチチャネルブロッカーであり,Vaughan Williams分類Ⅲ群の抗不整脈に分類される薬剤である.本邦においては薬剤不応性の不整脈,肥大型心筋症二伴う心房細動に対して使用されるが,欧米においては周術期心房細動予防に対する使用も報告されている.術前1週間経口投与13) ,術後静脈内投与14) ,周術期を通しての投与15) の有効性が報告され,ACC/AHA/ESC心房細動治療ガイドライン16) においてもアミオダロン投与は心房細動の高リスク症例への予防法として適切であるとClass Ⅱaで推奨されている(LOE A).その一方で,アミオダロンを周術期投与したプラセボ対照RCTのメタ解析では,アミオダロン投与によって副作用特に徐脈が1.7倍,低血圧が1.6倍に増加したことが示された17) .このことから,アミオダロンの予防的投与は周術期心房細動を発症するリスクの少ない症例に対する投与は避け,投与の際にも徐脈,低血圧などの副作用への注意が必要である.

【参考文献】
1. Andrews TC et al. Circulation.1991;84:III236–44
2. Podrid PJ. J Am Coll Cardiol.1999;34:340-2
3. Abdelhadi RH et al. Am J Cardiol. 2004;93:1176-8
4. Lamm G et al. J Cardiothorac Vasc Anesth. 2006;20:51-6
5. Halonen J et al. JAMA. 2007;297:1562-7
6. Cheruku KK et al. Prev Cardiol.2007;7 :13-8
7. Fleisher LA et al. Circulation. 2007;116:e418-99
8. Marin F et al. Am J Cardiol.2006;97:55-60
9. Patti G et al. Circulation. 2006;206:1455-61
10. Miller S et al. Heart. 2005;91:618-23
11. Satur CM. Ann R Coll Surg. 1997;79:349-54
12. Vyvyan HA et al. Anaesthesia. 2004;49:245-9
13. Daoud EG et al. N Engl J Med. 1997;337:1785-91
14. Guarnieri T et al. J Am Coll Cardiol. 1999;34:343-7
15. Mitchell LB et al. JAMA.2005;294:3093-100
16. Fuster V et al. Circulation. 2006;114:e257-354
17. Patel AA et al. Am J Health Syst Pharm. 2006;63:829-37

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周術期心房細動 その2 [周術期心房細動]

1. 周術期心房細動の特徴

 術後心房細動は,冠動脈バイパス術術後に最も多く発症する合併症であり,30%の症例に発症する.また弁置換術では30-40%,複合手術では40-50%で発症し1),非心臓手術である肺手術においても葉切除で10-20%,全摘術では40%の症例で発症すると報告されている2)
術後心房細動は術後2日目にもっとも多く発症し,その40%が再発する3).術後心房細動は周術期に一時的に発症するだけで生命予後に影響を及ぼすことは少ないと考えられてきたが,発症すると在院日数の延長だけでなく脳梗塞発症率は3倍になり,周術期死亡率も悪化する3).また周術期だけでなく遠隔期予後も悪化することが報告されている1)
術後心房細動の術前危険因子を表1に列挙する4).術後心房細動は特に高齢者では発症率が高い.従来から危険因子として挙げられていた左心房拡大,左心室肥大だけでなく,近年,糖尿病,肥満,メタボリック症候群と術後心房細動の関連が指摘されている5).周術期心房細動の心房細動の術中危険因子を表2に示す.心房の損傷,心房の虚血,脱血管挿入,急激な循環血液量変化,すなわち人工心肺装置導入,維持,離脱時における変化が術後心房細動の危険因子となる.さらに人工心肺装置使用に伴い炎症性反応も惹起されることも術後心房細動の誘因となり,人工心肺装置を使用した開心術では術後心房細動が発症しやすいと考えられている.続いて術後危険因子を表3に示す4).従来から容量過負荷,電解質異常,心房期外収縮,交感神経系の緊張の心房細動への関与は指摘されていたが,近年,それらの因子に加えて炎症性の反応が術後心房細動へ関与することが明らかになってきた6,7).上述したような周術期危険因子の解明により,術後心房細動の予防法,治療法は新たな展開を見せている.

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【参考文献】
1) Almassi GHet al. Ann Surg. 1997;226:501-11
2) De Decker Ket al.Ann Thorac Surg. 2003;75:1340-8
3) Villareal RP et al. J Am Coll Cardiol. 2004;43 :742-8
4) Echahidi N et al. J Am Coll Cardiol. 2008;51:793-801
5) Echahidi N et al. Circulation. 2007;116 :I213-9
6) Ishii Y et al. Circulation. 2005;111 :2881-8
7) Tselentakis EV et al. J Surg Res.2006;135 : 68–75

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周術期心房細動 その1 [周術期心房細動]

はじめに

 心臓血管手術術後に最も頻度が高い合併症は術後心房細動である(表)1).慢性心房細動を発症すると脳梗塞や心不全などの心血管系イベントは約2倍に増加することが知られていたが2),術後心房細動は慢性心房細動と異なり在院日数を多少延長させるものの生命予後に影響を与えることは少ないと考えられてきた.しかし,近年術後心房細動の発症が慢性心房細動と同様に心血管系イベントを含む多くの合併症に影響を与えている可能性が指摘され3),術後心房細動への関心が高まっている.術後心房細動には様々な因子が影響すると考えられ,有効性が認められた予防法,治療法も多岐にわたる.本稿では,術後心房細動の原因と特徴,予防法,発症した際の治療法について最新の知見を交え概説する.

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【参考文献】
1) Jin R et al. Circulation. 2005;112:I332-7
2) Benjamin EJ et al. Circulation. 1998;98:946-52
3) Villareal RP et al. J Am Coll Cardiol. 2004;43:742-8

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