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術前ACE阻害薬投与によってCABGの術後合併症は増加する [抄読会]

Effects of angiotensin-converting enzyme inhibitor therapy on clinical outcome in patients undergoing coronary artery bypass grafting.

【目的】
 術前ACE阻害薬投与がCABG周術期に与える影響について検討する.
【背景】
 ACE阻害薬は冠疾患患者の生命予後を改善し,心血管イベントを減少させる.しかし,CABG症例の術前投与の是非に関しては評価が定まっていない.
【方法】
 1996年から2008年までCABGを受けた10023例を対象にした後ろ向き観察研究.術前にACE阻害薬を服用している症例と服用していない症例に分け傾向スコアを用いて解析を行った.
【結果】
 全体の死亡率は1%.術前にACE阻害薬を服用することによって死亡率は2倍に高まった(1.3% vs. 0.7%; odds ratio [OR]: 2.00, 95% confidence interval [CI]: 1.17 to 3.42; p = 0.013).また,術後腎機能低下(7.1% vs. 5.4%; OR: 1.36, 95% CI: 1.1 to 1.67; p = 0.006),術後心房細動 (25% vs. 20%; OR: 1.34, 95% CI: 1.18 to 1.51; p < 0.0001),術後強心薬の使用(45.9% vs. 41.1%; OR: 1.22, 95% CI: 1.1 to 1.36; p < 0.0001)のリスクが高まった.術前ACE阻害薬の投与は死亡率(p=0.04),術後腎機能低下(p=0.0002),強心薬使用(p<0.0001),術後心房細動(p<0.0001)の独立危険因子であった.
【結論】
 術前ACE阻害薬の投与によって周術期死亡率は上昇し,強心薬使用,術後腎機能低下,術後心房細動は増加する.

【解説】
 ACE阻害薬,ARB服用患者では,麻酔導入後に治療不応性の低血圧が起こりやすいことが報告されている1,2).麻酔薬によって交感神経系が抑制されると、レニン-アンジオテンシン系の関与が大きくなることが予測される.しかしACE阻害薬,ARBを投与すると交感神経系だけでなくレニン-アンジオテンシン系も抑制され過剰な血圧低下が生じる危険性が高まる.一方,術当日の休薬によって麻酔導入時の低血圧が減少したとの報告3)もあり,現在非心臓手術においては術当日のACE阻害薬,ARBは休薬する方向にある.一方でACE阻害薬,ARBには,心筋虚血の改善,リモデリングの抑制,生命予後の改善作用が期待されるため4)冠疾患患者における術前ACE阻害薬の投与に関しては評価が定まっていなかった.CABG症例を対象とした今回の研究は術前ACE阻害薬投与が低血圧を惹起し,輸液量,強心薬使用,血管収縮薬使用が増加したこと,それに伴うと考えられる術後合併症(腎機能低下,術後心房細動)が増加し,死亡率も上昇したことを報告している.
 以上より非心臓手術だけでなくCABGにおいても術当日のACE阻害薬は休薬とし,術後安定した時点で再開することが望ましいと思われる.

【参考文献】
1) Colson P et al: Anesth Analg. 1992;74:805-8
2) Brabant SM et al: Anesth Analg. 1999;89:1388-92
3) Brabant SM et al: Anesth Analg. 2001;92:26-30
4) Rouleau JL: Circulation. 2008;117:24-31
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