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周術期に発症するPAC・PVC その7 [PAC・PVC]

2) 虚血に起因する心室性期外収縮の治療
 治療にあたっては期外収縮の発症に虚血が関与しているか否かと心機能低下の有無を評価する.心筋の虚血に伴って期外収縮が発症する場合にはまず,虚血の改善を優先する.

心筋梗塞急性期
 心筋梗塞急性期に発症する心室性期外収縮に関してはLown分類に従い治療方針を決定する(表4)1).この分類は心室性期外収縮の出現を12時間の長時間心電図をもとに危険度で分類したものである.Grade 1では経過観察,Grade2以上では心電図によるモニター注意深く行い,心室頻拍・心室細動を発症する危険性が高いと判断した場合に抗不整脈薬投与を行う.虚血に陥った心筋は膜電位が浅くNaチャネルが不活化状態にあるのでリドカインを使用する.リドカインは抗不整脈薬の中で最も陰性変力作用が弱いため使用しやすい.しかし,非持続性心室頻拍が多発し持続性心室頻拍・心室細動の危険性が高いと判断される症例ではニフェカラントやアミダロンの使用も考慮する2,3).虚血再灌流後の不整脈に対してニコランジルの併用が有効な症例もある.

心筋梗塞亜急性期以降
 虚血の関与・心機能を評価し積極的に虚血の解除,心機能の改善を図る.心室性期外収縮に関しては通常3連発未満であれば経過観察とするが,3連発以上の心室性期外収縮を認める症例では治療を考慮する.心機能低下の程度により抗不整脈薬を選択する.一方,大規模試験の結果4,5)からslow kineticのNaチャネル遮断薬(ジソピラミド,ジベンゾリン,フレカイニド)は禁忌である.心機能が正常な症例ではβ遮断薬またはリドカインを第一選択とする.第二選択としてはアミオダロンを使用する.心機能が低下している症例では陰性変力作用のある薬剤は使用することが難しい.第一選択をリドカインとするが,生命予後を改善するというエビデンスはないため長期使用は避ける.非持続性心室頻拍ではアミオダロンが推奨される6,7)

以上,心房性期外収縮・心室性期外収縮とその治療について概説した.周術期に観察される心房性期外収縮は周術期心房細動の発症と深い関連がある.心室性期外収縮は基礎疾患の有無によって対応が異なる.基礎疾患がある症例,特に周術期においては急性心筋虚血に伴う症例で加療が必要となることが多い.周術期の期外収縮に遭遇した場合には以上のことを念頭に管理することが望ましい.

表4 PAC.jpg

【参考文献】
1) Lown B, Wolf M : Approaches to sudden death from coronary heart disease. Circulation 44:130-142,1971
2) Kudenchuk PJ, Cobb LA and Copass MK, et al. Amiodarone for resuscitation after out-of-hospital cardiac arrest due to ventricular fibrillation. N Engl J Med. 341:871-878,1999
3) Dorian P, Cass D, Schwartz B, et al. Amiodarone as compared with lidocaine for shock-resistant ventricular fibrillation. N Eng J Med 346: 884-890, 2002
4) The CAST Investigators. Effect of encainide and flecainide on mortality in randomized trial of arrhythmia suppression after myocardial infarction. N Engl J Med 321: 406-412, 1989
5) The CAST-Ⅱ Investigators. Effect of the antiarrhythmic agent moricizine on survival after myocardial infarction. N Engl J Med 327: 227-233, 1992
6) Cairns JA, Connolly SJ, Roberts R, et al. Randomised trial of outcome after myocardial infarction in patients with frequent or repetitive ventricular premature depolarisations: CAMIAT. Lancet 349: 675-682, 1997
7) Singh SN, Fletcher RD, Fisher SG, et al. Amiodarone in patients with congestive heart failure and asymptomatic ventricular arrhythmia. N Engl J Med 333: 77-82, 1995

周術期に発症するPAC・PVC その6 [PAC・PVC]

1) 虚血に起因した心室性期外収縮の特徴
 以前より周術期心筋梗塞は術後3-5日に発症しやすいと考えられてきた.しかしバイオマーカー(特にトロポニン値)の詳細な分析によってほとんどの周術期心筋梗塞は術後24-48時間に始まることがわかってきた1).このような急性心筋虚血の発症後まもない時期は,症状がなくても心室性期外収縮の増加に従い予後も悪化するとされる.さらに心室性期外収縮から心室粗動・心室細動へ移行することも多い.この時期の心室期外収縮は高頻度にリエントリーを発症機序とする.

【参考文献】
1) Landesberg G et al.; Perioperative myocardial infarction. Circulation. 119:2936-44,2009

周術期に発症するPAC・PVC その5 [PAC・PVC]

2. PVC
 PVCのほとんどは基礎疾患のない症例,いわゆる突発性の発症であり,経過観察とすることが多い.しかし,高頻度で心機能低下の原因となる症例,心室粗動・心室細動に移行する可能性がある症例,器質性心疾患の一症状でPVCを発症した症例では治療が必要になることがある.特に拡張型心筋症や心筋虚血などの器質的疾患に伴うPVCは生命予後を悪化させる可能性がある.周術期においても心臓超音波検査を必要に応じて使用し基礎疾患の有無を確認する.一方,周術期に特有の問題点として心筋酸素需給バランスが乱れやすいことがあげられる.自律神経系亢進・痛みに伴い頻脈が発症する. hypovolemiaや心機能の低下に伴って血圧の維持が困難となる症例も多い.さらに冠動脈の収縮・貧血・低酸素も酸素供給を低下させる要因になる.その結果,特に術前から冠動脈疾患が指摘されている症例では周術期心筋梗塞発症の可能性が高まる22).以上の理由によって周術期に治療を要する心室性期外収縮は心筋虚血に伴うことが多い.以下虚血に起因するPVCの特徴・治療について述べる.

周術期に発症するPAC・PVC その4 [PAC・PVC]

3) 周術期心房細動の治療
 通常,周術期心房細動は持続時間が短く,治療を必要としない症例も多い.一方で,心機能低下症例,心拍数が130/minを超える症例,心房細動の持続時間が24時間を超える症例,中枢神経系合併症の高リスク症例では治療が必要になる.治療法としては慢性心房細動に対する治療法と同様に洞調律維持療法,心拍数維持療法,そして抗血栓療法が行われる.周術期心房細動を発症するとatrial kickが消失するため20-30%心拍出量が低下する.心臓手術周術期しばしば認められる循環動態が不安定な症例では洞調律が有利であるため,洞調律維持療法が推奨される(表2).洞調律への復帰にはフレカイニド,プロパフェノンが有効であるとされるが,効果が得られない場合は直流徐細動を施行する.
一方,これらの処置を行っても洞調律へ復帰しない症例が散見される.慢性心房細動に対する治療法を比較検討したAFFIRM studyにおいては心拍数維持療法の洞調律維持療法に対する優位性が示された1).その理由として洞調律維持のための抗不整脈薬の副作用,特に心抑制を挙げている.周術期心房細動においても抗不整脈薬反復使用によりさらに循環動態の悪化が進行する可能性があるため,洞調律維持が困難な症例では心拍数維持に努める.循環動態が安定している症例では心拍数維持療法を行う.β遮断薬,Ca拮抗薬,アミオダロンを使用し,心拍数を管理する(表3).ガイドラインにおいて心房細動症例の心拍数は安静時75/min,運動時の心拍数90-115/minで管理することが推奨されている2).周術期に関しても運動時に準じて90-115/minの心拍数で管理を行うことが望ましい.周術期心房細動発症後24時間を経過した症例,脳梗塞,一過性脳虚血の既往がある症例では心拍数維持療法に加えて抗血栓療法を併用する.75歳未満ではPT-INRを2.0-3.0で管理し,75歳以上ではPT-INRを1.6-2.6で管理する3)

表2.jpg

表3.jpg

【参考文献】
1) Polman CH et al.: A randomized, placebo-controlled trial of natalizumab for relapsing multiple sclerosis. N Engl J Med. 354:899-910,2006
2) Fuster V et al : American College of Cardiology Foundation/American Heart Association Task Force. 2011 ACCF/AHA/HRS focused updates incorporated into the ACC/AHA/ESC 2006 guidelines for the management of patients with atrial fibrillation: a report of the American College of Cardiology Foundation/American Heart Association Task Force on practice guidelines. Circulation.123:e269-367,2011
3) Epstein AE et al; American College of Chest Physicians. Anticoagulation: American College of Chest Physicians guidelines for the prevention and management of postoperative atrial fibrillation after cardiac surgery. Chest. 128:24S-27S,2005

周術期に発症するPAC・PVC その3 [PAC・PVC]

2) 周術期心房細動の予防
 従来,周術期心房細動に対しては非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬,ジギタリスが使用されてきた.非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬は上室性頻脈に対して有効であるとされる一方で,房室ブロック,心不全などの副作用が多いことが問題となっている.このため,Ca拮抗薬の予防的投与は慎重に行わなければならない.ジギタリスも周術期心房細動予防のメタ解析において有効性を示すことができなかった.周術期心房細動は交感神経系の緊張が一因であるために副交感神経に作用するジギタリスでは予防効果は得られにくいことが理由として挙げられる.
 表1に示す方法が有効な周術期心房細動の予防法として報告されている.周術期心房細動を発症した症例は洞調律維持症例と比較してCRP,白血球数,炎症性サイトカインの値が有意に高いため,炎症性の反応が周術期心房細動の一因であると考えられている1).これを受けて抗炎症薬である副腎皮質ホルモン2),非ステロイド性消炎鎮痛薬3)の予防的投与の有効性が報告されている. スタチンは血管内皮細胞の機能を改善し,炎症を抑える.その結果,周術期心房細動だけでなく周術期心血管系イベントを減少させると報告されている4).電解質では周術期心房細動発症症例において血清マグネシウム値が低いこと,頻脈性不整脈とマグネシウムには深い関わりがあることから周術期マグネシウム投与の有効性も報告されている12).以前より心房性期外収縮が周術期心房細動の一因であるとされ,期外収縮より早い心拍でペーシングすることによって周術期心房細動を予防できるとされてきた.メタ解析においても単心房ペーシング,両心房ペーシングいずれも有意に周術期心房細動を減らすことが示されている5-7)
アミオダロンはα遮断,β遮断,Kチャネル遮断,Na,Ca遮断作用を持ったいわゆるマルチチャネルブロッカーであり,Vaughan Williams分類Ⅲ群の抗不整脈に分類される薬剤である. ACC/AHA/ESC心房細動治療ガイドラインにおいてもアミオダロン投与は心房細動の高リスク症例への予防法として適切であると推奨されている8).その一方で,アミオダロンを周術期投与したプラセボ対照RCTのメタ解析では,アミオダロン投与によって副作用特に徐脈が1.7倍,低血圧が1.6倍に増加したことが示された9).よってアミオダロンの予防的投与は周術期心房細動を発症するリスクの少ない症例に対する投与は避け,投与の際にも徐脈,低血圧などの副作用への注意が必要である.
β遮断薬は刺激伝導系細胞や心筋細胞への直接的な抗不整脈作用を有しており,Vaughan Williams分類Ⅱ群の抗不整脈に分類される薬剤である.周術期心房細動に対してもβ遮断薬の周術期予防的投与が試みられている.その結果,β遮断薬による周術期心房細動の抑制が多くの試験から報告され10),アミオダロンとともに周術期心房細動を予防する薬剤としての地位を確立している.一方,POISE trialにおいて周術期β遮断薬投与によって心血管イベントは減少するものの全死亡率,脳卒中発症率は有意に増加すると報告された11).このためβ遮断薬投与の際には副作用,特に徐脈,低血圧に対する注意が必要である.

表1.jpg

【参考文献】
1) Abdelhadi RH et al.: Relation of an exaggerated rise in white blood cells after coronary bypass or cardiac valve surgery to development of atrial fibrillation post-operatively. Am J Cardiol 93 :1176-8,2004
2) Halonen J et al. :Corticosteroids for the prevention of atrial fibrillation after cardiac surgery: a randomized controlled trial. JAMA 297:1562-7,2007
3) Cheruku KK et al. :Efficacy of nonsteroidal anti-inflammatory medications for prevention of atrial fibrillation following coronary artery bypass graft surgery. Prev Cardiol 7 :13-8, 2004
4) Marin F et al.: Statins and post-operative risk of atrial fibrillation following coronary artery bypass grafting. Am J Cardiol 97:55-60,2006
5) Miller S et al.: Effects of magnesium on atrial fibrillation after cardiac surgery: a meta-analysis Heart 91:618-23,2005
6) Burgess DC et al: Interventions for prevention of post-operative atrial fibrillation and its complications after cardiac surgery: a meta-analysis Eur Heart 27:2846-57,2006
7) Crystal E et al: Interventions on prevention of post-operative atrial fibrillation in patients undergoing heart surgery: a meta-analysis Circulation 106:75-80,2002
8) Daoud EG et al: Temporary atrial epicardial pacing as prophylaxis against atrial fibrillation after heart surgery: a meta-analysis J Cardiovasc Electrophysiol 14:127-32,2003
9) Fuster V et al : American College of Cardiology Foundation/American Heart Association Task Force. 2011 ACCF/AHA/HRS focused updates incorporated into the ACC/AHA/ESC 2006 guidelines for the management of patients with atrial fibrillation: a report of the American College of Cardiology Foundation/American Heart Association Task Force on practice guidelines. Circulation.123:e269-367,2011
10) Patel AA et al. Safety of amiodarone in the prevention of post-operative atrial fibrillation: a meta-analysis Am J Health Syst Pharm 63:829-37,2006
11) Coleman CI et al.: Impact of prophylactic postoperative beta-blockade on post-cardiothoracic surgery length of stay and atrial fibrillation. Ann Pharmacother. 38:2012-6,2004

周術期に発症するPAC・PVC その2 [PAC・PVC]

1) 周術期心房細動の特徴
 周術期心房細動は,冠動脈バイパス術周術期に最も多く発症する合併症であり,30%の症例に発症する.また弁置換術では30-40%,複合手術では40-50%で発症し1),非心臓手術である肺手術においても葉切除で10-20%,全摘術では40%の症例で発症する2).周術期心房細動は周術期2日目にもっとも多く発症し,その40%が再発する1).周術期心房細動は周術期に一時的に発症するだけで生命予後に影響を及ぼすことは少ないと考えられてきたが,発症すると在院日数の延長だけでなく脳梗塞発症率は3倍になり,周術期死亡率も悪化する2).また周術期だけでなく遠隔期予後も悪化することが報告されている.周術期心房細動は特に高齢者では発症率が高い1).従来から危険因子として挙げられていた左心房拡大,左心室肥大だけでなく,近年,糖尿病,肥満,メタボリック症候群と周術期心房細動の関連が指摘されている3).術中では心房の損傷,心房の虚血,脱血管挿入,急激な循環血液量変化,すなわち人工心肺装置導入,維持,離脱時における変化が周術期心房細動の危険因子となる.さらに人工心肺装置使用に伴い炎症性反応も惹起されることも周術期心房細動の誘因となり,人工心肺装置を使用した開心術では周術期心房細動が発症しやすいと考えられている4).従来から容量過負荷,電解質異常,心房期外収縮,交感神経系の緊張の心房細動への関与は指摘されていたが,近年,それらの因子に加えて炎症性の反応が周術期心房細動へ関与することが明らかになってきた5).上述したような周術期危険因子の解明により,周術期心房細動の予防法,治療法は新たな展開を見せている.

【参考文献】
1) Almassi GH et al.: Atrial fibrillation after cardiac surgery: a major morbid event? Ann Surg. 226 :501-11,1997
2) De Decker K et al: Cardiac complications after noncardiac thoracic surgery: an evidence-based current review. Ann Thorac Surg. 75:1340-8, 2003
3) Echahidi N et al.: Obesity and metabolic syndrome are independent risk factors for atrial fibrillation after coronary artery bypass graft surgery. Circulation. 116 :I213-9,2007
4) Echahidi N et al.: Mechanisms, prevention, and treatment of atrial fibrillation after cardiac surgery. J Am Coll Cardiol. 51:793-801,2008
5) Ishii Y et al.: Inflammation of atrium after cardiac surgery is associated with inhomogeneity of atrial conduction and atrial fibrillation. Circulation. 111 :2881-8,2005

周術期に発症するPAC・PVC その1 [PAC・PVC]

 PAC・PVCは心室細動や洞不全症候群などの重症な不整脈と異なり軽症の不整脈に分類され経過観察になることが多い.期外収縮は周術期に最も遭遇する不整脈であるが,周術期にはその一部が重症化する危険性がある.今回は周術期の期外収縮に焦点を絞り,その特徴と管理法について述べる.

1. PAC
 PACとは,心房およびそれに接合する肺静脈,上大静脈,下大静脈,冠状静脈洞を起源とする期外収縮である.原因としてはジギタリス中毒,強心薬投与,テオフィリン投与などが挙げられる.過度の交感神経亢進状態,心疾患等による心房負荷,肺疾患,甲状腺疾患などの基礎疾患も原因となるが,原因が明らかでない症例も多い.PACは治療の対象になることは少ないが,強い自覚症状を伴う症例,PACの多発により心機能が低下している症例,心房細動に移行する可能性がある症例で治療適応となる.特に周術期に発症したPACは心房細動,すなわち周術期心房細動に移行する可能性が高いとされる.一般的に心房細動を発症すると脳梗塞や心不全などの心血管系イベントは約2倍に増加することが知られていたが1),周術期心房細動は一般的な心房細動と異なり在院日数を多少延長させるものの生命予後に影響を与えることは少ないと考えられてきた.しかし,近年周術期心房細動の発症が一般的な心房細動と同様に心血管系イベントを含む多くの合併症に影響を与えている可能性が指摘され,周術期心房細動への関心が高まっている2).周術期心房細動には様々な因子が影響すると考えられ,有効性が認められた予防法,治療法も多岐にわたる. 以下,周術期心房細動について特徴,予防法,発症した際の治療法について述べる.

【参考文献】
1) Benjamin EJ et al.: Impact of atrial fibrillation on the risk of death: the Framingham Heart Study. Circulation 98 :946-52,1998
2) Villareal RP et al.:Postoperative atrial fibrillation and mortality after coronary artery bypass surgery. J Am Coll Cardiol. 43 :742-8,2004
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