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下行・胸腹部大動脈置換術における脳脊髄ドレナージの役割 [抄読会]

Lumbar cerebrospinal fluid drainage for thoracoabdominal aortic surgery: rationale and practical considerations for management.

 本邦における年間心臓血管外科手術症例数は約50000例である.その中で胸部大動脈手術は年々増加傾向にあり現在年間9000例が施行されている.上行・弓部大動脈置換術における最も重篤な合併症は脳障害であるが,下行・胸腹部置換術では脊髄虚血による対麻痺であり,発症頻度は現在でも10-20%に達する.また新しい技術であるステントグラフト内挿術においても対麻痺は8%程度の症例で発症している.この対麻痺を予防するため脊髄保護を目的とした様々な方法(肋間動脈再建,軽度低体温,MEP,硬膜外cooling,脳脊髄ドレナージ…)が行われている.本稿では最も頻用されている脊髄保護法・脳脊髄ドレナージについて概説する.

1. 脊髄虚血
 脊髄の背側1/3は2本の連続した後脊髄動脈が血液を供給しているのに対し,腹側2/3に血液を供給するのは1本の分節的な前脊髄動脈のみである.このため脊髄腹側(運動路)は虚血に陥りやすい.脊髄腹側への最も大きな血液供給源はAdamkiewicz動脈であり,T8-L1の下行大動脈から分岐することが多い.危険因子としてはCrawford typeⅠまたはⅡ,術後低血圧,AAA術後,糖尿病などが挙げられる.

2. 脳脊髄ドレナージによる脊髄保護
 脊髄の灌流圧は “脊髄灌流圧=末梢側平均動脈圧-(脳脊髄圧または中心静脈圧)”で表わされる.大動脈遮断などの脳脊髄圧上昇時にも脳脊髄ドレナージは脳脊髄圧上昇を抑制することによって脊髄灌流圧維持に寄与する.脳脊髄圧≦10mmHgまたは脊髄灌流圧≧60mmHgを目標に脳脊髄ドレナージを行う.脳脊髄圧のゼロ点は外耳ではなく右房とする.一方で平均動脈圧も灌流圧維持の重要な因子である.動脈圧は末梢側平均動脈圧≧60mmHgを目標に管理する.

3. 脳脊髄ドレナージの挿入
 脳脊髄ドレナージは手術前日に行う.クロピドグレルは7日,チクロピジンは10-14日前に休薬する.さらに血小板数≧10万/μL,PT-INR<1.3,aPTTが正常であることを確認する.穿刺はL4/5またはL3/4から行い,くも膜下腔に到達後8-10cm挿入する.

4. 脳脊髄ドレナージの合併症
 最も大きな合併症は頭蓋内硬膜外血腫であり,脳脊髄ドレナージによる脳脊髄圧の低下に起因する.このため脳脊髄液はドレナージ量<10-15mL/hを保つ.また髄膜炎,穿刺部位の硬膜外血腫も報告されている.穿刺部位の感染が認められる場合,ドレーンから血液が確認された場合は中止する.

5. 疼痛管理
 オピオイドの使用により脊髄虚血を悪化させる可能性があるためオピオイドのくも膜下腔への投与は控える.

6. 術後管理,脳脊髄ドレナージ抜去
 手術終了後も脳脊髄圧≦10mmHgまたは脊髄灌流圧≧60mmHg,平均動脈圧≧60mmHgを目標に管理する.感染予防の見地からドレナージ留置は72時間以内とする.また血性脳脊髄液が確認された場合には頭蓋内血腫を疑いCT,MRI検査を行う.脳脊髄ドレナージ抜去はへパリン中断2-4時間後とし,血小板数≧10万/μL,PT-INR<1.3,aPTTが正常であることを確認する.へパリンの再開はドレーン抜去1時間後とする.

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